第9話 調査
エヴァの記憶を取り戻すため、ディランたちは駆けずり回った。
と言いたいところだが、実際のところ、この町でできることはほとんど無かった。まず何をどうすればいいのかも分からないので、とりあえず魔道具や魔剣に詳しい人物を探すことにしたのだが、その時点でもう詰まってしまった。
(まあ、当然かな)
知り合いの
魔剣の使い方を知っている冒険者はいても、原理やメンテナンスの方法まで詳しい者はごく
(となると、もっと大きな町に行かないとな)
前払いした宿代は無駄になるが、諦めるしかないだろう。自分の命がかかっているのだ。
宿に着いたのは、ちょうど昼を少し回ったところだった。一階の食堂では、食事をとっている者たちだけでなく、賭けカードか何かに興じているグループもいくつかあった。よっぽど暇なのだろう。どうやら、南のダンジョンの話はまだ広まっていないらしい。
面白そうなゲームをしているテーブルを見つけて、ディランは立ち止まった。テーブルには、マス目が描かれた木の板と、その上には小さな人形が並んでいて、二人の冒険者がそれを挟んで向かい合わせに座っている。
人形は、簡易的ではあるが、槍を持った兵士や馬に乗った騎士を模しているようだった。実物を見たのは初めてだが、戦争ゲームの一種だろうか。冒険者の片方が人形の一つを前に動かすと、腕を組んだもう片方が、苦い表情になった。
不意に、肩の辺りを後ろから指で
「探してるって聞いたから」
「ああ、うん。ちょっと聞きたいことがあって。今大丈夫?」
「大丈夫だよ」
空いたテーブルに座って、ディランは事情を説明した。ダンジョンで手に入れた魔剣のことで困っている、というだけで、魔剣の、エヴァの詳細は伏せている。かなりの価値がありそうだということを知られると、奪ってやろうという者が現れないとも限らないからだ。もちろん、セリアの指示だった。
「私は分からないけど」
マリーは言った。
「お師匠様なら分かるかも」
「魔法の師匠?」
「うん。王都に住んでる」
「王都か……遠いな」
ディランは考え込んだ。王都に行くというのは、選択肢の一つではあった。この辺りの地方では、最も大きな町だからだ。遠く西にある魔道都市の方が確実だろうが、一か月ではとても辿り着かない。
とは言え王都も、街道を通って行くと半月はかかる。期限の半分以上を移動に費やすというのは、なかなか勇気のいる選択だ。
「北から行けば?」
「まあ、そうだね……」
そのルートが一番近い。十日もかからないだろう。ただ問題なのは、魔物が多く
数百年は生きているという伝説の
悩んでいるディランの顔を、マリーが覗き込むように見た。
「私もついていこうか?」
「いや、そこまで世話にはなれないよ」
「王都には行こうと思ってたの」
「パーティの人たちも?」
「ううん。もうすぐお休みだから」
「へえ」
ディランは感心したように言った。定期的に長い休みを取って、各自訓練をしたり、故郷に帰ったりするケースはあった。もちろん、それなりに稼いでいるパーティだからできることだ。
「ちょっとだけ相談させてもらってもいいかな?」
「セリア?」
「うん。今日中には答えるよ」
「わかった」
マリーはこくりと頷く。そこでウォードの名前が出ないあたり、うちのパーティの内情をよく分かっているなとディランは思った。
セリアの部屋を訪ねると、彼女は集めた情報を整理している最中だった。いや、整理というほどたくさん集まっているわけではないから、自分であれこれ考えているという方が正しいかもしれない。
机の上には、再び沈黙してしまったエヴァが、剣の状態で置かれていた。魔力を節約しつつ武器として使う方法が無いか試したのだが、上手くいかなかった。ディランが対象を斬る意思を持って振ると、例えどんなにゆっくりでも、ダンジョンで会った魔物のように真っ二つにされてしまう。注意して扱わないと危険だ。
心を読まれるということで、最初セリアはエヴァに触れるのを嫌がっていたが、調査のためにしぶしぶ触っていた。「私の考えてることを少しでも喋ったら、ただじゃ置かないから」と釘を差すと、エヴァは素直に頷いていた。もっともディランも同じことをお願いしたので、単にそれを守っているだけかもしれない。基本的に、彼の言うことなら何でも聞くようだった。
王都に行く案についてセリアに説明すると、ディランの予想通り、気乗りはしないようだった。危険な道のりだし、当然だろう。単にマリーの意見に従うのが嫌だったからでは無いと思いたい。
「でも、これが一番いい案なんじゃないかとも思うんだ。エヴァのことを調べるのに、王都以上にいい場所は無いだろ?」
「……まあね」
セリアは渋々頷いた。彼女も王都のことは考えていたのだろう。
「でもマリーと一緒に行くのは反対。エヴァのことがばれちゃうじゃない」
「そこはほら、ずっと剣のままでいてもらえば」
「ウォードが黙ってられると思う?」
「いや、さすがに……」
否定したいが、しきれないディランだった。
「でも最悪マリーにはばれてもいいと思ってる。少しでもリスクを小さくする方が重要じゃないかな」
ディランがそう言うと、セリアは黙ってしまった。目を瞑って考え込む。
「分かったわよ」
しばらくのあと、溜息をつきながらそう言った。
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