第3話 ダンジョン
次の日の朝早く、ディランたちは早速ダンジョンに向けて出発した。初めて行く場所だ、もう少し装備を整えておきたかったが、資金が尽きかけている身ではどうしようもない。
南のダンジョンは森の中にあった。ダンジョンまで街道が敷かれているわけではないが、ちょくちょく冒険者が通るため、草が刈られて少しは歩きやすくなっていた。
途中、一匹の魔物、『一角兎』が襲ってきたが、男二人の剣と、セリアの弓で難なく撃退することができた。鋭い角は、少しは金になるので回収する。肉は売れないし、まあまだ食べることも無いだろうということで、放っておいた。
「やはり新しい武器はいいな。切れ味が違う」
「はは……」
ウォードの言葉に、ディランは
ダンジョンには、昼頃についた。周囲に比べて地面が低くなったところに、大きめの井戸のような穴が口を開けている。石造りの壁にに付けられた細い階段は、ぐるぐると回りながら闇の奥に伸びている。
簡単な食事を取り、少しだけ休憩をして、三人はダンジョンに入った。もし一階の敵が多かったら、すぐに町に取って返す計画だ。その場合、あまり時間に余裕が無い。陽が沈んだ後の森を歩くなんて、まっぴら御免だ。
「地図は頭に入ってる?」
「うん」
「おう」
一番後ろを歩くセリアの言葉に、残りの二人は頷いた。ばらばらに逃げる必要があるかもしれないので、入り口から二階への階段を繋ぐ辺りの地形は、昨日頑張って暗記した。ダンジョンの中では常に逃げる算段を立てておけ、と師匠から何度も言われたことを、ディランはふと思い出す。
結構な時間階段を下りて、ようやく底についた。三人分ほどの幅の通路が、真っ直ぐ前方に伸びている。入り口の光は頭上に小さく輝くだけで、道の先を照らすのはランタンの明りのみだった。
「ウォード、前をよく見ててよ。あなたが一番目がいいんだから」
「分かってるさ」
ウォードが自信ありげに言った。このダンジョンの魔物は、少々特殊だ。油断していると、正面から奇襲されることになりかねない。
男たちが前を歩き、セリアはその二人の後ろ、ちょうど真ん中をついていった。これが普段のこのパーティの並び方だ。男二人が接敵し、セリアは後ろから援護する。
「待った」
不意に、ウォードが仲間たちを制止した。立ち止まったディランは道の先に目を凝らしたが、何も見えない。
「いる?」
「ああ、天井だ。曲がり角の辺り」
セリアの問いかけに、ウォードは頷く。もう一度目を凝らしてみると、確かに天井付近に、ランタンの光を反射する線のようなものが見えた。
「私がやってみる」
セリアが言う。矢筒から矢を取り出し、弓に
「
小さな呟きと共に、セリアは矢を放った。同時に、布がぼっと燃え上がる。
火矢は線の辺りにびゅんと飛んでいき、そのまま壁にぶつかり、ぽとりと地面に落ちた。それを見て、セリアは憎々しげに呟いた。
「ああもう! 当てにくいったら……」
「こっちに来るぞ」
ウォードが剣を構えた。曲がり角の辺りからきらきらしたものが近づいてくるのが、ディランの目にも何とか見えた。ここは任せておいた方がいいかな、と思って、一歩下がる。
虫でも払うように、ウォードは剣を軽く振った。近づいてきたきらきらが、地面に
「結構大きいな」
「うむ」
人の腕ほどの長さの、途中で直角に折れ曲がった細い針金のような脚が、小さい蜘蛛の体にくっついている。こいつがこのダンジョンで最も多い魔物、『針金蜘蛛』だ。脚の先に付いた毒針はそれほど強力ではないが、何度も刺されると、次第に体が動かせなくなっていく。一匹なら大した敵ではないが、とにかく視認し辛く、また数が多いので、いつの間にか囲まれていることも多々ある。
「そんなの見てないで、早く行きましょうよ」
セリアは嫌そうに顔を歪めながら言った。魔物の体を適当に蹴り飛ばして壁に寄せたあと、ウォードは再び歩き出した。
(やっぱり、魔物は減ってるのか?)
ディランは彼の横に行きながら、心の中で自問した。聞いていた話だと、一階の時点であの蜘蛛は結構いて、複数と戦いつつ進む必要があるということだった。今のところ、そんな事態になる気配は無い。
次に現れたのは、数匹の『鋼蟻』だった。姿形は少し大きい普通の蟻だが、名前の通り鋼のように硬い。顎の力も、人間の皮膚程度なら簡単に食い破れるほどだ。男二人で、剣の腹を使って丹念に叩き潰した。
その後は魔物に会うこともなく、ディランたちは二階へと続く縦穴に辿り着いた。ダンジョンの入り口と同じく、井戸のような穴に階段が付いている。
「行くってことでいいのか?」
「ええ」
振り返るウォードに、セリアが頷いた。
一列に並んで階段を下りる。ディランは壁に手をついて進みながら、ふと上を見た。入り口が見えた最初の階段とは違って、そこにあるのは闇だけだ。下を見ても、同じ光景が広がっている。無限に続く穴を下りているような気分になったが、ほどなく二階についた。
一階と同じ隊列で、三人は進む。景色は先ほどまでと全く変わらないが、魔物の数はかなり増えるはずだ。油断はできない。
「そこ、左ね」
分かれ道が来るたびに、後ろのセリアが地図を見ながら行き先を指示する。ギルドで買ったこの階層の地図は、まだまだ歯抜けが多い。そのどこかにお宝が眠っていることを期待して、三人は進んだ。
不意に、ぶーん、という羽音が、通路の先から聞こえてきた。音は次第に大きくなっていく。全員、立ち止まって武器を構えた。
少し先にある横道から、一抱えもある大きな蜂が飛び出してくる。一匹ではない、立て続けに三匹きた。
(よし)
ディランは表情を引き締めた。
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