第2話 冒険者ギルド
街に出たディランは、一つぐらい依頼が残っていないかと
途中、見知った冒険者パーティが、重そうな荷物を背負って歩いていくのを見かけた。多分この町から撤退するのだろう。もっと冒険者が減ってくれれば、ギルドの依頼も取れるようになるかもしれない。が、それまで金が持つのかは微妙なところだ。
ギルドの建物の中には、冒険者がたむろして暇そうにしていた。普通なら依頼が並んでいるはずの掲示板には、何も貼られていないようだった。
「お?」
と思ったら、端に一枚だけ残っていた。もしかして、今貼られたばっかりなんだろうか。内容に期待しつつ、いそいそと近づく。
「……」
だが、依頼の題名を読んだところで、ディランはがくりと肩を落とした。そこには『北の山脈のドラゴン退治』と書かれていた。並みの冒険者では、いや、並みの一流冒険者であっても、とても無理だ。全ての能力が高く、人間以上の知能を持つと言われるドラゴンと戦える冒険者など、ほとんどいない。
こんな町に、そんな冒険者が滞在しているとはとても思えない。この依頼を出した誰かさんは、本気で探す気があるのだろうか。指定の場所までは数日かかる距離だし、色んな町に手当たり次第に貼っているのかもしれない。
「ディラン」
不意に名前を呼ばれ、顔を向ける。そこに居たのは、ゆったりとした漆黒のローブと目深に被ったフードという、いかにも魔術師という格好をした少女だ。
「お仕事探しに来たの?」
「そうなんだけど、無理みたいだね」
ディランは掲示板を手で示し、肩をすくめた。少女は残った一枚の依頼をちらりと見て、納得したように頷いた。
「南のダンジョンに行ってみたら?」
「うーん、マリーのところなら行けるかもしれないけど……」
ディランが言うと、目の前の少女はこてりと首を傾げた。
あまり自覚は無いようなのだが、彼女の魔法の威力はかなりのものだ。パーティメンバーの実力も高い。彼女たちなら、南のダンジョンでも戦えるだろう。ディランたちではかなり厳しい。
不意に、マリーは首を元に戻すと、何かに気づいたようにはっと口を開けた。そのまましばし固まる。どうしたんだろう、とディランは怪訝そうに眉を寄せる。
「内緒にしてね」
そう言うと、マリーはディランに近づいた。つま先立ちになって背伸びすると、相手の耳元に顔を寄せる。
「魔物が減ってるんだって」
「な、なんの?」
あまりにも近い少女の顔に、ディランは焦った。自分の耳元に口が触れそうだ。だが相手の方は、気にした様子もない。
「南のダンジョン」
「……。え、そうなのか」
頭がフリーズしかけて、相手の言葉を理解するのに少し時間がかかってしまった。重要な情報だ。魔物の脅威が薄れているのなら、自分たちでもなんとかなるかもしれない。
マリーは何事も無かったかのように、身を離して元の場所に戻った。
「うん。だから、行ってみたら?」
「ありがとう、考えてみるよ」
そう言うと、少女はこくりと一度頷き、身を
(どうするかな……)
ちょうど武器も新調したし、行ってみようか。とりあえず、セリアに相談はしてみるべきだ。
(……)
あまり相談したくない理由が一つあったが、まあ大丈夫だろう……多分。そう自分に言い聞かせて、ディランはギルドをあとにした。
「と、言うわけなんだけど」
ディランはセリアに、先ほど聞いた南のダンジョンの話を説明した。ディランは椅子に、セリアはベッドに座っている。彼女が借りている個室は、男二人の部屋とは違って綺麗に整理整頓されていた。
「面白い話ね。でもそれ、誰に聞いたの?」
セリアは探るような視線を向けながら言った。ディランは一瞬言葉に詰まる。情報源はあえて説明しなかったのだが、思った通り質問されてしまった。
「ふーん、やっぱりマリーなのね」
「な、何も言ってないんだけど……まあ、そう」
刺々しい口調で言うセリアに、ディランはしどろもどろになって答えた。
どうもこの二人は仲があまり良くない……というか、セリアがマリーを毛嫌いしている。相手の方がどう思っているのかは、いまいち分からない。もっとも、マリーが何を考えているのかは、だいたいいつもよく分からないのだが……。
「あの子の言うことなんて、真に受けて大丈夫なのかしら」
「多分、嘘は言ってないと……」
「それはそうでしょうけどね。でもどれぐらい減ってるのかも聞いてないんでしょ? 私たちでも本当に行けるのか分からないじゃない」
それはディランも気になるところだ。でもマリーに聞いても、はっきりとした答えは返ってこないんじゃないかという気がする。他の人から情報収集するにも、あまりこの話を広めるわけにはいかない。
「なら、地下一階で様子見してみるのはどうだ? 行けそうだったら、二階に進むってことで」
ディランはそう提案した。一階はもう既に探索しつくされていて、通過するだけの階層になっている。前から二階よりは魔物の数が少なかったはずだから、最悪、数があまり減っていなくても、逃げ帰るぐらいはできるだろう。
「そうね……」
セリアは口元に手をやると、目を細めて床の一点を見つめていた。ディランは相手の顔を見ながら、返事を待つ。怒ってなければかわいいんだけどなあ、と、とても口には出せない感想が頭に浮かんだ。
「分かった。行きましょう」
決然とした表情で、セリアは言った。
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