第16話 すでに手遅れだったみたいです


「ちーちゃん!」

「ちー姉!」

 口々に叫ぶチサ達。すると、ちー姉は目を開けてこう言った。

「……思ったよりみたい……大丈夫、少し疲れただけだから……」

「大丈夫じゃないでしょ、すぐ家に送るから少し我慢してて」

「ありがと……姉さん……」

「チサ、そういう事だから少し待ってて」

「うん、こっちは大丈夫だから早く行って上げて」

「ありがとう」と言い残し、お姉はちー姉を連れて跳躍した。

「すげぇ、こんななんて……まるで魔法だ」

 見ると、隣で騎士様は感動の余り目頭まで熱くなっている。

 意外にチョロいな、この兄ちゃん……

「ところで、勇者殿は何処いずこに」

「ゆ、勇者?」

 いきなり何言ってんのこの人?

 とか思っていると、彼は熱っぽい眼差しでこう続けた。

先刻さっきまで一緒にいた茶髪のの事さ」

「もしかして、お姉の事?」

「そうか、君のお姉……さん?」

 ここで、エイロは一つ大きな間違いに気付いたようだ。

「お、女?」

 こくりと頷くチサ。すると突然、

「だぁっはっはっはっは、これは良い。道理で男にしちゃナヨっとしてると思ったぜ。女だったとはなぁ!」

 などと腹を抱える三下騎士エロナイト

 お姉が聞いてたら、確実にぶっ殺されるな……この人。

「おっと、そんな事より」とエイロは腰に付けた布袋から、何かを取り出した。

 それは――上下が逆の五芒星を正十字で突き刺したような紋章が彫られたロザリオだった。

「これは?」

「そいつは聖母神様の御守で、我らが教皇様の紋章でもある。これを勇者殿に渡して欲しい」

「なんで?」と首をかしげるチサ。

 すると、エイロは珍しく重い口調でこう答えた。

「邪教徒といくさになるのだ」



「姉さん……もう大丈夫だから」

 一方で家では、お姉がちー姉をベッドまで運んだ所だった。

 そのかたわらで、ルクスさんが心配そうにお姉達を見守っていた。

「本当に?」

「うん……それより、早く戻って上げて……何か、嫌な予感がするの……」

「解った。じゃ、あたしは行くけど、ちゃんと寝てなさいよ。三日やそこら待ってて上げられるんだからね!」

「ありがと……お休み……」

 そう言って、ちー姉は静かに眠りについた。

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