第14話 意外に早く見つかったのです


「女神……いや、天使様!」

 ひれ伏す男の前に立ち、少女は姿微笑んでみせた。

「哀れな子羊さん。願いを言ってごらんなさい」

「で、では、どうか娘を……私の娘をお救い下さい」

「良いわ、では娘さんをこちらに……」

 言われて男は連れの娘を差し出す。

 少女は酷く脅えていた。まるで悪魔憑きのように、やつれた顔で尻尾を振る。

「さあ、こっちへいらっしゃい」とうながす彼女に、少女は震えながらも父から手を放す。

「大丈夫、怖くないわ……あなたの中の悪魔を払ってあ・げ・る」

 耳元でささやき、彼女――御使杏寿みつかいあんじゅは笑った。まるで魔女のような妖艶ようえんさで。



「やば……こっから先は中学生には刺激強すぎかも」

「チサ、ちゃんと何見たのか教えなさい」

 アイスを食べながら覗くチサに、お姉が苛立った声を上げる。

「いやーお姉、この人ちょっとヤバいよ」

「どういう事?」

「まさか、そっちの気があったなんて……」

「そっちって何よ」

「とにかく彼女、あんまし帰る気無いかも」

「それは何となく解る気がするわ……」

 お姉は嘆息混じりにそうつぶやいた。



 昨夜、お姉が御使さんの家に電話をかけると、例のお兄さんとやらが出たらしい。

「あたし、同じ学校の舞弦まいづると申します。御使みつかいさんのお兄さんですか?」

「はい、そうですが」

「実は妹さんの外泊を許可いただきたいのですが、よろしいでしょうか?」

「えっと舞弦さんでしたっけ、失礼ですがご兄弟は?」

「妹が三人です」

「なら良いですよ。男の家だったら『泊まるんじゃねぇぞ』って言いますけど」

「そ、そうですか」

「なんでしたら一週間泊めて下さっても構いませんよ。どうせ、しばらく両親も帰って来ないんで」

「解りました。では、

「はい、よろしくお願いします」

 そこで電話が切れた。



 そして今チサ達は異世界の空の下、広場のベンチで鳳凰屋おおとりやの抹茶テラアイスに舌鼓を打っていた。これぞ、贅沢の極み。

「しかし困ったわね、帰る気無さそうって言うのは」

「ていうか、なんか天使様とか言われて崇められてるよ」

「え……なんか嫌な予感するわね、それ」

「どーして?」

「あのエルフちゃんの言ってた神託よ」

「確か『天使が降りて魔女がどうの』ってヤツでしょ。それがどーかしたの?」

「だって、

 あ、確かに……という事はまさか魔女って……

「チサ、彼女の位置を教えて。面倒なことにならない内に、とっとと連れて帰るわよ!」

 その時だった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る