第6話 お胸は見事に砕け散っていたのです


「や、その、危なかったわね。石像が落ちて来なかったら、どうなってたやら……あはははは」

 などと、白々しい台詞を吐くお姉。

「……せ、聖母神せいぼしんアフロダンディ様の裸像が……」

「あ、アフロ……ダンディ……?」

 見た目からはとても想像つきにくい名前に、お姉は思わず聞き返した。

「はい、時と祝福の女神アフロダンディです。この世界の全てを生み出せし聖母神であり、慈愛と幸福をもたらす恵みの化身。この世界の生けとし生ける者は皆、女神アフロの子供なのです」

 なんかすごい設定きたっ!

「そ、そんなすごい神様だったの……」

 額から汗を垂らしながら、お姉は頬をひきつらせる。そこへ、

「貴様、そこで何をしている!」

「ひぃっ!」

 背後から恫喝の声と共に、騎士隊がぞろぞろと押し寄せて来た。

 その数、十人ほど。その内、中央にいる隊長らしき短髪の男が、シワを寄せながらこちらを向いていた。

 せっかくのイケメンが台無しだ。

 ちなみに、いま悲鳴を上げたのはエルフの方。お姉はと言えば「やっぱし」と言った表情で嘆息混じりに肩をすくめていた。ていうか、


 後でちーちゃんにでも何とかしてもらおう……


 とか考えてる顔だ、あれは。

「貴様、何処いずこの者だ? 禁忌を犯した上に我らが聖母神像を傷つけるとは……さては、邪神の信徒だな!?」

「禁忌? 邪神? 何よそれ」

「とぼけるなよ。貴様、このメスエルク最大の禁術――召喚魔術サモナマグスを使ってただろう!」

 言っていることは今一よく解らないが、恐らくお姉のを見ていたのだろう。

「では、やはり勇者様だったのですね!」

 と、金髪エルフも割り込んできた。

 あのぉ、話が余計ややっこしくなるんで正直やめて欲しいんですけど……

「いや、だから勇者じゃないし……」

「ふん、話は後でじっくりいてやる。な!」

「へっ?」と間の抜けた声を上げるお姉の眼前で、何かの歌を口ずさみながら人差し指で円――いや、八を横に倒した形――無限大を表す記号を描く。

 刹那、白い光の文字が浮かび上がり、それがお姉の両手首に巻き付いた!

「ちょっと何これ!」

 戒めの光が鎖のように両手をきつく締め付け、引き剥がそうとしてもピクリとも動かない。

「いくらもがいても、そのかせは外せんぞ。私以外にはな」

「ちょっと、手なんか縛って何する気よ?」

「決まってる」と返す騎士の顔に黒い笑みが浮かび上がる。

「異端審問だ」

 その言葉を耳にしたエルフが、見るからに青冷めた顔で震えていた。

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