第5話 振り向くと金髪エルフの少女がいました


 先刻さっきお姉の方を見ていた、あのエルフだ。

「今、なんか勇者って言わなかった?」

「はい。あなた様のそのお姿と、先ほど市場で天使とおっしゃってましたので」

 市場で見かけた時、お姉とは50メートルくらい離れてたハズ。

 それを聞き取るとは流石エルフ、その尖った長耳は伊達じゃないらしい。

「あ、天使ってのはあたしの知り合いのことで、別に本物ってわけじゃ……」

「天使とお知り合いという事は、やはり天の使わされた救世主!」

「いや、人の話を……」

「よう、姉ちゃん」と、そこで別の野太い声が割って入る。

「ん?」

「はい、どちら様で?」

 二人が振り向いた先に居たのは、これまた先刻金髪エルフを見ていた獣人。

 姉ちゃんと親しげに呼んでいたが、エルフの反応から見る限りどうやら知り合いではない様子。

「何、このライオンヘッド?」

 さほど興味なさげなお姉の台詞に、獣人は一瞬睨むように視線をぶつける。

「男に用はねェ、引っ込んでろ」

「あ?」

 まずい、今の一言はまずい。

「あの、わたくしに何かご用でしょうか?」

「お、可愛い声だね。俺は獣王族のスメノスってんだ。どうよ今晩、俺と契らねェ?」

「ち、契りって……」

 獣人の言葉に、なぜか顔を赤くしてうつむくエルフ。

「一目見た時から気に入ってたんだ。顔も、その丈夫そうな体つきも俺好みでよォ」

 舐め回すように、その起伏の激しい身体を眺めるエロ獣人。

 そして獰猛な欲求丸出しで、その毛深い手がエルフの肩をつかんで抱き寄せる。

「ちょっ……」と、慌てて引きはがそうとする彼女。しかし、流石獣人と言ったところか、エルフの細腕ではピクリとも動かない。

「無駄な事ァ止めようぜ。どうせ今夜、お前は俺の聖剣にその身を捧げるんだ」

「い、いや……離してください」

「へへっ、たまんねェなァその声。ベッドの上でどう鳴くのか、楽しみだぜおい」

「おい、おっさん!」

 そこでブチ切れ寸前のお姉が口をはさむ。

「まだいたのかガキ、とっととうちに帰ってママのミル……」

くせんだよ、この淫獣ケダモノがぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 叫ぶと共に獣人の頭上に巨大な影。

「ぐげっ!」

 振り向く間もあればこそ、スメノスとやらの脳天にが頭から激突した。

 その衝撃が亀裂となって大理石に伝わる。

 そして獣人は、そのままゆっくりと仰向けに倒れた。

「大丈夫?」と駆け寄るお姉。

「あ、ありがとう、ございま……」


 ごっ!


 不意に鈍い音が響き渡った。

「…………………………えっ?」

 何か嫌な予感でもしたのか、エルフは恐る恐る振り返る。

 そこには――顔の割れた大理石の女神がうつ伏せに倒れていた。

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