第4話 トラックが残酷な運命を乗せて迫るのです


 お姉は慌てて御使みつかいさんの腕をつかみ、その場で

 目の前に真っ白が広がって――


 意識は少しずつ乖離かいりして行き、もやが晴れていくように真っ白な光が薄らいでいく。そして――


 気が付くと、目の前に知らない風景があった。



 女神像の広場から少し離れ、お姉は市場の通りを歩いていた。

 西洋の街並みに、やたらと重そうな銀甲冑を着た騎士らしき男達。中には女騎士とかいう、オークとかに捕まってアレな展開しか無さそうな人種。黒いフード付きのローブに身を包んだ魔術師風の男の姿も。

 決定的なのは、往来の中に現実には絶対あり得ない種族がいることだ。

 こちらを見ている耳の長い金髪エルフに、その彼女を見ている金のたてがみをなびかせた獣人、銀の鱗に覆われた魚人。そして、買い物かごを持った角と翼と尾っぽを生やした竜人(?)の娘まで。

「あんなモン見せられたら信じるしかなさそうね。天使ちゃんもそう……って?」

 そこで初めて、御使みつかいさんがいないことに気がつく。

「やば……と思ったのに、どっかに置いてきちゃった……ていうか一体どこ飛ばしてんだ、あたしはぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 事の重大さに気付き、お姉は思わず絶叫した。

「ママぁ、あの人なんか変な格好で叫んでるよー」

「しっ、見てはいけませんっ!」

「あ……」と我に返るお姉。周りから痛い視線を浴びせられ「コホン」と意味なく咳払い。

「にしても、異世界か……」

 お姉は歩きながら独りぽつりとつぶやく。

 まさかようで、頬をつねってみたり、眉に唾を付けてみたりしている。


 けどお姉、チサもこれをみてるんだよ。


 お姉は腕組みつつ左の人差し指でアゴを叩いていると、横手から淡い煙が漂ってきた。

「湯気?」

 気になって視線を移した先には、大きな白塗りの建物があった。

 左右に水瓶を担いだ男女の裸像、その間に入り口が二つ。どうやらここは、

「銭湯……つか、公衆浴場って奴か」

 独り合点してうなずくと、その前を大きな胸が横切った。

 鼻を掠める甘い香りとその妖艶な服装に思わず顔を赤らめ、お姉は自分の胸元と見比べてしまう。

「ま、まだ成長期なんだし……こ、これからよ。これから」

 などと、慰めるようにつぶやく。その時だった。

「あの、もしかして勇者様ですか?」

 不意に背後から、透き通るような奇麗な声が聞こえたのは。

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