第2話 お話は少し前に戻るのですよ


 舞弦千鳳まいづるちどりは少し変わり者の女子高生……とか言ったら、おねえは怒るかもしんない。

 この日は気温が例年よりも低く、前日までのうだるような猛暑から打って変わって秋口のような涼しさを覚えた。


 学校が終わると、お姉は珍しく駅近のゲームセンターへ寄り道していた。

 昨晩、遅くまで調べ物していたにも関わらずだ。

 どうも学校で何かあったらしく、寝不足も手伝ってかなり不機嫌だったらしい。

 気分転換も兼ねてと言ったところだろう。だが、

「ねえ、いいじゃん。キミだって興味あるだろ? そういうの」

「いや、でも本当に困るんです。お願いですから……」

「お願いされてもなー。俺らとしても、ただってワケにもいかないからなー」

 幸か不幸か、こんな時に限って如何にもな場面に遭遇する。

 見ると、奥でお姉と同じ制服を着た女子高生が、壁を背に他校の男子八名に囲われていた。

 お姉は嘆息してから茶色がかったボブをかきつつ、

「ちょっとお兄さん達」と声をかけた。

 お姉の声に反応し、男子が一斉にそちらを向く。

「なんだテメー」とお決まりの台詞を返す不良たち。

「その子、嫌がってんじゃん」

「おいおい、スカートなんか履いてる割に随分と勇ましいな

 ぶちっと、何かが切れる音。下卑た笑いを浮かべ、男子が一人迫る。

「まぁ、ちょっと遊んでやっ……」

 言い終わる間があればこそ。

 一瞬、――肩に触れようとした男子が視界から消える。

 気が付くと、彼は

 背中から思いきり地面に叩き伏せられ、衝撃が肺を圧迫してせき込む男子。

「はい、次……いや、面倒だからまとめてやるか」

「このガキ、あんまナメた態度とっ……」

 キレた男子その二の台詞も待たずに、お姉は男子達と少女の間におどり出る。

 何かが弾け、お姉を中心に男子が一斉に吹き飛んだ。

 立っていたのは、絡まれていた女子生徒とお姉の二人だけ。

「危ないところだったね」という声に、少女が慌ててお辞儀する。

「ど、どうも、ありがとうございました!」

「怪我は無い?」

「はい、おかげさまで」

「そう、なら良いけど。それと多分同じ高校で同学年だから、敬語はナシね」

「あ、はい……えっと、わたしは……御使杏寿みつかいあんじゅ。よ、よろしく」

 彼女はおずおすと差し伸べるその手を、お姉は気軽に握り返す。

「あたしは舞弦千鳳まいづるちどり。よろしくね」

「まいづる……じゃあ、あなたがあの……」

「あの?」

「A組の無間地獄むげんじごく……て、どうかしました?」

 見ると、お姉は近くのクレーン台に寄りかかっていた。

「いや少し、めまいが。つか『無間地獄』て何?」

「うちのクラスでは、その名で通ってますけど……?」

「音的に『むげん』しか合ってないし、そもそも『無限召喚むげんしょうかん』と書いて『ブレーンマスター』て読むから」

 などと訂正するお姉。


 あまり人前で『無限召喚ブレーンマスター』とか名乗らないで欲しい。

 高校生にもなって中二全開な人みたいで、妹として正直恥ずかしい。


「ま、ここで立ち話もなんだし、どっか喫茶店でも入らない?」

 お姉がそう言うと、御使さんも軽くうなずいた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る