無限召喚のぶらり旅

さる☆たま

第1話 どうやらそこは異世界でした


「お姉ちゃん、ちー姉ちゃん、お誕生日おめでとう」

 姉にとっては少し前の、遠い遠い記憶の断片。

 暗い部屋の中で小さなあかりが七つ、ほのかにらいでいた。

「ほら、ちーちゃんもこっち来て」

 コクコクとうなずく小さな女の子を、お姉ちゃんがひざの上に乗せる。

 目の前にはロウソクの火。

「じゃあ、あたしとちーちゃんとで半分こずつ消そうね」

 お姉ちゃんはそう言うと、一息で三本のロウソクを消してみせた。

「今度はちーちゃんの番だよ」

 ちー姉ちゃんを一生懸命持ち上げて、ケーキの前に近寄せるお姉ちゃん。

「フー、フー」と、ちー姉ちゃんは見よう見まねで息を吹きかけた。

 けれど、消えたのはその内の二本のみ。

 落ち着いてからもう一度吹いてみると、今度は一本だけあかりが残った。

「えらいよちーちゃん、よくがんばったね」

 そう言って、頭をなでるお姉ちゃん。

「じゃあ、今度は一緒に吹こうか」

 せーのと合図して、二人で残りのロウソクに息を吹きかけた。

 すると、目の前をまっくら闇が包み込み……




「え、ここ……どこ?」

 気が付くと、目の前に知らない風景があった。

 頭上には蒼々とした空がいっぱいに広がり、そこを赤や青や緑が鮮やかに飛び交っている。

 それは良く見ると、角や翼の生えた巨大なトカゲのような生き物だった。

 アニメやゲームによく出てくるドラゴンの姿に良く似ている。

 赤いブレザーを羽衣代わりに、さながら天女のように地上に舞い降りる。

 見渡すと、どうやら住宅街のようで両脇を壁のように家々が連なっていた。

 外観は西洋の街並みによく似ているが、どこか違和感があった。それは――


 玄関のドアが見当たらない。というか、窓のありそうな二階や三階にドアが付いているのだ。


 しばらく行くと、開けた通りに出る。

 そこは、大勢の人で賑わったメインストリートのようだ。

 だが、ここでも信じられない物を目の当たりにする。

 石畳の大通りを何台もの馬車が行き交っていた。果物やら、樽やら、仔牛やらを乗せて揺れる荷馬車たち。問題はそれを引く馬……のようなもの。頭に一本の角を生やしている。


 これはもしや、ユニコーンってヤツでは?


 更に進むと、今度は正面に石像が見えてきた。

 全長およそ5メートルの大理石でできた美しい裸の女神像。

 局部と両胸を小さな葉っぱで隠しているのが、かえって卑猥に見える。でも美人だから許す。

 その石像を中心に円を作る形でいくつもの道が枝分かれになっていた。街の広場と言ったところか。

 女神像の手前で立ち止まると、腕組みしながら左手の人差し指であごの下をトントンと一定のリズムで叩き始めた。

 何かを考えている時に出る、いつものクセだ。

 少しして、その指がピタリと止まる。そして――


 は独りつぶやいていた。


「うそ、ここって……もしかして異世界ってヤツ?」

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