ボクは何者?

 アブソリュート・デルタ・カンパニー メディカルルーム。

 そこに存在するベッドにアンドロイドは眠っていた。

 さすがに裸はかわいそうだとモイが言うので、一枚羽織っている。

 そして、ゆっくりと目を覚ます。

 が、突然目の前に銃口が向けられた!

「ひっ!」

 怯えるアンドロイド。

 その目の先には大きな体格の男性が見えた。ラグランである。

 この状況に、彼女はボロボロと涙を流してしまった。

「おいおい、そんなに泣くなよ。警戒していただけだ。」

 銃をしまいながら言うラグラン。

「……はい……。」

 そう言って涙を拭うミル。

「思ったんだが、お前アンドロイドだよな?なんで涙を流す機能なんて付いているんだ?」

「それが・・・何も分からないんです。ボクがアンドロイドだということ以外は。」

「そうか。まあいい。制御装置もついているし、安心だな。」

 何か重たさを感じていた彼女は、首についた重苦しい印象を与える制御装置に手を添え、自分が何かしてしまったのだと感じた。

「あの……! ボク、何か」

「あー、それは皆の前で訊いてくれ。ついてこい。」

 彼の言葉を遮り、ラグランは言う。


 メディカルルームの扉から出て、廊下をすたすたと歩くラグラン。そこに一生懸命着いていくアンドロイド。アブソリュート・デルタ・カンパニーの社員たちが珍しそうに彼を眺め、通り過ぎていく。


「着いたぞ。」

「は、はい!」

何かしてしまったことについて考えていた彼はハッとしたように頷いて、メカニックルームに足を踏み入れた。


「おーい、アンドロイドさんがお目覚めだ。」


「おはよ~!」

「おはよう。」

 モイとルーンが、爽やかに挨拶をする。

「緑の瞳に青い髪!かわいいいい~。」

 モイがアンドロイドに近づいて、頭ごとぎゅっと抱きしめる。

「わわっ!」

 少し照れるアンドロイド。

「そ、それよりあのっ! ボク、何かしてしまったのでしょうか?」

「え~。気にしなくていいの! それよりもっとハグさせて~。」

「何が“気にしない”だ。こいつのせいでコンピュータの暴走だ。」

 ラグランが間髪いれず応える。

「そんな大変なことを……。ごめんなさい!」

「大丈夫大丈夫~。制御装置があるしね!あとこれ!開発してみました~。」

 取り出したのは可愛らしい花模様のブレスレットだった。

 どうやらこれが第二の制御装置らしい。

 モイはアンドロイドにブレスレットを装着し、それから首の制御装置を外した。

「このブレスレットは絶対にはずしちゃだめよ~。」

「わかりました。ありがとうございます!」

「それと~……」

「はっ、はい!なんでしょう……。」

 モイがあまりにも勿体ぶる発言をするので、まだ何かしでかしたのかと思いドキドキしながらモイの発言を待つ。

「あなたのお名前のことだけど~。ただ一人の存在という意味のミルってどうかしら~。」

「ボクの名前……ミル……。」

 しかし、ここで反論が飛んできた!

「おい! まさか、こいつをここに置いておく気じゃないだろうな!」

「いいじゃない別に~」

「よくねえよ!」

「まあまあ、2人とも落ち着いて。ごめんね、ミルちゃん。」

 なにやら喧嘩が始ってしまい、おどおどとするミル。


「あ、あの!」


「なんだ。お前も何か言いたいことがあるのか?」

 一斉にミルの方を向く3人。


「ボク……何者なんでしょうか……。」


「それなんだけど、何も分からないのよね。精密検査もしてみたけど、アンドロイドにしては感情が豊かなことぐらいしかわからなくてごめんなさいね。」

 目の前にモニタを出してデータを見ながら言うモイ。

「製造者が誰かもわからないのか?」

「うん。わからない。」

「そうですか……。」

 落胆を隠せないミル。

「さすがにまずいと思って、今回の事、政府に連絡してみたんだけど、知らないの一点張りで。迷子のアンドロイドさんって事になったわ。ところで・・・」

 また勿体ぶるように発言するモイ。

「なんだよ……。まだ言い合いするか?」

「もーやめてよ、2人ともー!」

「違います! ラグランとルーンで、ミルちゃんの服買ってきて!」

「なんで、お前が行かないんだ・・・。」

「私は開発で忙しいの!かわいいのお願いね!」

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