問3.4 : 戦争に必要なのは数ですか? 力ですか?
ひでこ:へるぷみー
まりぺ:とぅーばっど
「だいたい時間経過で教科が変わると戦闘中の対戦教科が変わるとか、くそ実装過ぎる」
真理子が悪態をつく横で、咲がスマホをスクロールした。
「そのシステムは一昨年にできたようですから、まだ未完成なのでしょう」
咲の言は正しいのだろう。さらにいえば、ここ最近まともに試召戦争が行われていなかったがゆえ、新しく実装されたシステムのバグが露わになっていない。
Dクラス戦では、そのあたりを洗い出しておく必要がありそうだ。
「援軍を送りますか?」
「冗談だろ」
特攻隊に援軍など無用だ。彼女達の任務は揺動と戦力の分散。向こうがこちらの特攻隊に戦力を割いてくれれば万々歳である。
「そもそも本部は本部で防御に手一杯だ」
教室の外で喧騒が聞こえる。
この教室に入れないように、Dクラスの攻撃を防いでいる。おおきなバトルフィールドが展開され、無数の召喚獣が戦闘を繰り広げている。
真理子は、紅茶を一杯啜りながらスマホに目を戻した。
「なぁ、咲。この宝箱のパスコードって何だっけ?」
「たしか、誰かの誕生日ではありませんでしたか? この城の王様とか」
「そうだそうだ。お姫様のスリーサイズだった」
真理子と咲がスマホをいじっていると、横で美波ちゃんが首を傾げていた。
「織田さん? 何しているの?」
「FFだよ」
「げ、ゲームだよね?」
「そうだよ、ファンシー・ファンタジー。美波ちゃん、知らねぇの?」
いわゆるオンラインのロールプレイングゲームだ。獣やら小人やらドワーフやら妖怪染みた格好をした上で、世界平和をなすべく様々なイベントをこなしていくという実にありふれていて、逆にもはや斬新な設定である。
「いや、そういうことじゃなくて」
美波ちゃんは何やらあわてた顔をして、真理子に問いかけた。
「今、試召戦争中なのよ! ゲームしている場合じゃないでしょ!」
真理子は特に気にするふうもなく、美波ちゃんの非難の声を聞き流した。
「いやいや、美波ちゃん、逆だよ。むしろあたしはゲームくらいしかすることがないんだ」
「どういうこと?」
わからないようなので、仕方なく真理子は説明する。真理子が教室のドアの方に指を向けると、美波ちゃんは一度そちらを見てから首を傾げた。
「あたしはクラス代表なんだ。前線に出るわけにはいかないだろ。後方で大事に守られているしかないんだよ」
「それでも、ほら、指揮をするとかさ」
「見てわからないかなぁ、美波ちゃん。教室出てすぐそこ、完全に膠着状態なわけ。もう糊付けされてんじゃないのってぐらい動かない。あたしも指揮のしようがないわけよ」
ふーん、と美波ちゃんは、いささか釈然としないような顔で頷いていた。
「こんなんで勝てるのかなぁ。坂本はもうちょっとちゃんとしてたけど」
美波ちゃんの言う元Fクラス代表である坂本も、この状況下では動かなかっただろう。彼らの時代のルールでは、もう少し動的だったかもしれないが。
真理子は指揮をしない。しかし、それは指揮をする必要がないということであって、既に指揮を終えていることであった。
現状の膠着状態、これはサイコロを振って出た目ではなく、真理子が狙って出したゾロ目であった。
「勝ちへの道は、真理子の中にあるのでしょ?」
美波ちゃんの不審を払おうとしてか、咲がフォローを入れる。
「まぁな。たいした話じゃない。言ってしまえば、Dクラスが失策をしているから、まぁ、こっちは合わせてやっているってかんじかな」
「失策?」
「そう。ところで美波ちゃん。戦争において最も大事なものって何だと思う?」
「え? うち、ゲームとかあんまりしないんだけど、うーん、強い武器とか?」
「補給だよ」
「補給?」
「たしかに、補給ラインを切られた前線の部隊は地獄ですものね」
「……藤井さんは、傭兵かなにかだったの?」
否定できない程度に咲は謎めいているが。
「話を戻すと、戦争においては補給が大事ってこと。いかに相手の補給を断って、こちらの補給を行うかが重要」
「それと今の作戦とどう関係があるの?」
ふふん、と真理子は少し得意気に説明する。
「試召戦争では、補給は点数の補充だな。戦うことによって減っていく点数をいかに効率よく補充するか」
点数の補充は、テストを受けることにより補充をすることができる。補充テストは初期配置の教室で受けられる。
「ここに籠城すれば、補充は迅速にできるだろ」
「逆にDクラスは遠い自陣に戻らなければ補充テストを受けられないということですね」
いわゆる地の利、まぁ、それもあると真理子は頷く。
「待って。でも、今の試召戦争ってそもそも勝つか負けるまで召喚獣を引っ込められないのよね。じゃ、どこにいようと補充テストを受けられないんじゃない?」
「そ、そこが肝要。そして美波ちゃん、ルールを勘違いしている」
真理子は続けた。
「バトルフィールドに相手の召喚獣が同数以上いる場合、自らの召喚獣を消すことはできない。逆に言えば、自陣の召喚獣の数が敵陣の召喚獣の数よりも多ければ消すことができるんだ」
「たとえばこうだ」と真理子は説明した。
「そこに敵と味方の召喚獣が二十体ずついる。すると、どちらも召喚獣を消すことができない、が、ここにFクラスの召喚獣を十体追加する。すると自陣の召喚獣の数が三十体となり」
「あぁ! 十体消せる!」
「そ、今まで戦っていた召喚獣を引っ込めることができる。引っ込んだ奴らはその脚で補充試験を受ける。これを繰り返すことにより、点数を減らすことなく戦線を維持できる」
美波ちゃんは一度感心したが、何かに気づいたように顔を顰めた。
「でも、それはDクラスも同じなんじゃないの?」
「違うね。それが失策だって言ってんの」
美波ちゃんのために、真理子は解説する。
「両クラスの人数はそれぞれ四十五人。それでいてDクラスの配分はこうだ。クラス代表一人、攻撃二十人、守備に残り二十四体という守り主体のスタンダードな配分だな」
「ふむふむ」
「一方でこっちは守備に三十八人使っている。すると、どうだ。向こうはこちらよりも人数が多くなることがないから、補充するために前線から下がることができない」
「え? あ! でも、Dクラスも攻撃に人数を増やせば」
「それができないように彩達を特攻させた」
咲が小さく笑うけれど、そういう意味じゃないから、と真理子は目を背ける。
「あいつらにクラス代表を討ち取れるとは思ってない。ただ、敵が攻めてきているという情報は伝わる。そうすると、守備の人数は減らせない。敵がへっぽこでも、心理的に自陣の守りを薄くする指示は出せない。まぁ、増やせても二人か三人。そうしたら、こちらも前線の数を増やすだけだ」
実質的、補充ラインの切断。
それこそが、この膠着状態の実情であった。
「へぇ、織田さんもいろいろ考えているんだね」
当たり前だと真理子は不満をもらしそうになったが、美波ちゃん相手にムキになってもあれなので適当に話を流しておいた。
そもそもこの手で勝てるのは、点数が僅差であるDクラスくらいのものだ。この戦法がBクラス相手に通じるとは思えない。
戦争を長引かせての戦闘訓練だ。
それも、さすがに飽きてきた。
「さて、そろそろ準備はできたかな?」
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