問3.3 : 協力プレイは得意ですか?

 もう、しゃーないな。

 秀吉は頭をかいて、前に出た。

「召喚! 選手交代や」

 続いて、他の連中も召喚を行う。

 場には合計十体の召喚獣がひしめきあっている。

 ちなみに、一度戦いを受けたならば、そのバトルフィールドが消滅するまで、召喚獣を消すことができない。

 相手の召喚獣よりも多い場合のみ、自分の召喚獣を消すことができる。今は、両者の召喚獣の数が同じなため、撤退することができず、彩の召喚獣も後方でうろうろしている。

「うちは日本史得意やないんやけどなぁ」


 勝負内容:日本史

 対戦者:羽柴ノア(Fクラス)vs 河野啓太(Dクラス)

 150点  vs 163点


 秀吉は運動が得意な方である。

 召喚獣の扱いも苦手ではない。ただ、現実の動きほど、敵に対してアドバンテージがあるとも思えなかった。

 他の男連中の点数も似たり寄ったりだ。Dクラスに比べていささか低い。

 まともに勝負したら、おそらく負けるだろう。

 だとすると、

「いっちょやってみますか」

 秀吉は目の前の敵に牽制しながら、「ちょいちょい」と彩を近くに呼び寄せた。

 疑問符を浮かべる彩の手をぎゅっと握る。

「ねぇ、秀吉。結局、あなた、どっちなんだっけ?」

「ふふん、どきどきするか?」

「返答次第では握り潰すけど」

「痛ッ! 女! 女やから!」

「まぁ、そういうことにしておいてあげる」

 まったく冗談の通じない奴や、と秀吉は顔を顰めた。

「で、お手々なんか繋いでどうするわけ?」

「こうするんや」

 秀吉は一度息を吸ってから、舞台のように声を張った。

「協奏!」

 すると彩の召喚獣の体が泡のように消失した。

「私二号が消えた!」

 そして泡の数々は一つの光となって収束し、秀吉の召喚獣の手元に大きな剣となって現れた。

「私二号が剣になっちゃった!」

 昨年、実装された『協奏機能』だ。二人の生徒が手を繋ぎ、どちらか一人が協奏と叫ぶと、もう一方の召喚獣が武器となり装備できる。

「ただ見栄えがよくなるだけじゃあらへんで」


 勝負内容:日本史

 対戦者:羽柴ノア+吉井彩(Fクラス)vs 河野啓太(Dクラス)

 251点  vs 163点


「「「点数が増えた?」」」

 協奏した召喚獣では、二人の点数が足された値がパラメータとなる。

「差は歴然やな」

 思わず後退るDクラスの面々に対して、すかさず秀吉は切り込んだ。こちらの変化に対応できていない相手の召喚獣は、態勢を崩しており、攻撃を当てるのは容易だった。

 振り下ろした大剣が敵の召喚獣の頭に直撃すると、まるでゴム球を打ったかのように大剣は跳ね返り、そして敵の召喚獣は痛そうに頭を抑え、しばらくして消失した。

「痛い!」

 なぜか彩が叫び声をあげる。


勝負内容:日本史

 対戦者:羽柴ノア+吉井彩(Fクラス)vs 河野啓太(Dクラス)

 201点  vs 0点


「もう一匹!」

 気にせず秀吉は前に出た。秀吉の半ば振り回した剣は、もう一体の召喚獣を弾き飛ばした。

「痛! 痛! 痛い!」

 また、なぜか彩が悲鳴をあげていた。


勝負内容:日本史

 対戦者:羽柴ノア+吉井彩(Fクラス)vs 追田駿(Dクラス)

 151点  vs 0点


「よーし。このまま全員やっちま、あれ? 点数がまた減ってへん?」

「あと、その剣で殴る度に、私が超痛いんだけど!」

 彩のことは放っておこうかと思ったが、秀吉はふと思いだした。彩は観察処分者だ。観察処分者は、日頃から召喚獣を使った雑務を強いられる。ゆえに、その制御のために痛みのフィードバックがあるのだとか。

「この武器は彩の召喚獣やから、殴ると彩が痛いわけか。しかもなんかめっちゃ刃こぼれしてるんやけど」

 真理子に聞いてみるか。


まりぺ:協奏で武器にされた方は、攻撃の度に点数が減るくそ実装。

    戻ったら報告よろ


 真理子も協奏実装には興味があるようだった。

「どっちにしろ、この剣もう使えへんしな」

 ぽいっと召喚獣が剣を捨てると、剣は光の玉となって彩の召喚獣へと姿を戻した。

「私二号!」

 その姿は見るも無残というか、悲惨というか、悲壮というか、見る影もないというか、とにかくぼろぼろだった。

「ねぇ、私二号の日本史の得点1点しかないんだけど!」

 正確には彩の日本史の得点が1点なんやけど。

 なるほど協奏にもなかなかデメリットがあるようだ。

「彩。二号はもう……」

「もう、なんなの!? 手遅れっぽく言わないでくれる!」

 まぁ、彩が手遅れなのは遠い昔にわかっていたことだから、今更感があるのだけれども。

 それよりも彩二号ソードはもう使えない。という状態で、Dクラスの三人を倒さなくてはいけない。まぁ、こちらは五人で敵は三人。数の利がある以上、そのまま押し切れるか。

「野郎ども! 残り三人や!」

「「「おぉ!」」」

 後退りをするDクラスをFクラスが追う。

 そのとき、秀吉のスマホがぶるりと震えた。


まりぺ:そろそろ教科が変わるぞ


 スマホを確認するや否や学内にチャイムが鳴った。真理子の連絡がなくとも教科の変化は周知されるようだった。

 秀吉達がいるエリアの教科が変わる。

「やけど、うちらの優勢は変わらん!」

「「「そうだ! そうだ!」」」

 

勝負内容:数学

 対戦者:羽柴ノア(Fクラス)vs 小川義人(Dクラス)

 15点  vs 115点

 対戦者:吉井彩(Fクラス)vs 前田康介(Dクラス)

 6点  vs 140点

 対戦者:黒田光秀(Fクラス)vs 内山良平(Dクラス)

 52点  vs 92点

 対戦者:佐々木元太(Fクラス)

 38点 

 対戦者:井川四郎(Fクラス)

 63点 


「……撤退や!」

「「「おぉ!」」」

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