第7話

俺は、その日、仕事で知り合った女性を車に乗せていた。



キュウドウさんとは血がつながっていないものの、


何か芸術的な面での影響をうけたのか、


俺はカメラマンになっていた。



取材と撮影で一緒になったその女性はデザイナーで、


岸さんと言った。




彼女は俺より10歳年下だったが、ひどく話や気が合った。


撮影でテンションが上がっていた俺は、


「よかったら、家まで送るよ」


と彼女に申し出た。


断っておくが、岸さんは実家住まいで、


別に何か下心があったんじゃない。


ただもっとたくさん、話していたような、懐かしい気持ちがしていたのだ。


ところが、


聞いてみると、


彼女の家は県外も県外。


軽く車で片道2時間コースだった。


しかし、今更、


「やっぱり送るのはやめる」とも言えず、


まあ、ドライブと思えばいいさ


と俺は車に岸さんを乗せた。



ところが、

彼女の家が近づいてくるにつれ


なにか奇妙な感覚がした。


風景に見覚えがある。


「俺、


ここ、来たことあるぞ」



しかし、自分が覚えている限り、


免許を取ってから、こんな地方に車を運転してきたことはない。



朧げな記憶の中で、


同じ景色が浮かぶ。


その時は、女の人の泣き声を聞いた気がした。


誰の泣き声だったのか、と思っているうちに、


やがて


川が見えてきた。


川の匂いがした。


そこで、


俺はくっきりと景色を思い出し、岸さんに尋ねてみた。


「もう少しいくと、この先に、緩いカーブがあるよね」


岸さんは頷いた。


「ええ、あります。」


俺はさらに尋ねた。


「それと赤い屋根の丸窓の変な、


童話に出てくるようなダサい洋館みたいな家があるでしょ」


岸さんがちょっと驚いた顔をした。


「ええ、よく知ってますね。


この辺に

来たことあるんですか?」



俺は、車を走らすにつれ、


まさかまさかと


嫌な想像が頭から離れなくなった。


あの泣き声の女性は、ばあちゃんだ。


俺はばあちゃんと親父に連れられて、


この道を車で通ったのだ。



「あ、ここです!


これが、私の家です」


岸さんがそう言った、その場所は、


キュウドウさんが事故死した現場だった。


俺は岸さんの顔を見た。



岸さんは、ショートカットで


痩せていて、目が細くて、顎が三角形だった。


俺は、岸さんにおそるおそる聞いてみた。


「君って、誕生日、いつ?」


「はい、〇〇〇〇年の〇月〇日です。」


恋占いでもするつもりなのかと、


誤解したらしい


岸さんの頬が少し上気した。


俺は、青ざめた。



岸さんの誕生日は


キュウドウさんが事故で死んだ翌日だった。


岸さんはデザイナーだから、もちろん、絵がうまい。


驚愕(きょうがく)して口もきけない俺に、岸さんが言った。



「永野さん。うちに上がりませんか。


お茶出しますよ」


俺は軽いめまいを感じながら、頷いた。

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