第3話当日の異変

俺はすぐに死神と一緒に地上に戻ってきた。死神によると、どうやら死んでからもう一週間たったようだ。

俺が生きていた頃と何も変わっていない。一週間で変わる訳ないが、そう考えてしまう。

ここは、俺が生きていた場所だ。


(時間の流れ方が違うのか・・・・・・。ありがちだよな)


「おい夕人、お前殺される前日とか当日とかになんか変わったことなかったのか?」


死神が俺に問いかける。


「はい、俺も今考えていました。て言うか助言しないんじゃないんですか?」


「あぁ、そうだったな。悪い悪い」


自分で決めてたのに。結構適当だなこの人。


「ええと、俺が殺される前日、つまり火曜日は恋人と半年記念日でして。知り合いは彼女としか会ってませんね」


「ふむふむ、それで当日は?」


「かなりいろいろありました」


さぁ、ここでやっと事件当日の回想である。





まず朝礼が終わった後、哲と拓斗が何か話しているのを見つけた。俺の方には気づいていないらしく、何やら深刻な表情で話していた。戻ってきた哲に何を話していたのかを聞くと「夕には関係ないさ」と言われ、結局教えてもらえなかった。


「その二人は普段話さないのか?」


「あんな風に二人で話すことはあまりないと思います。俺が今まで気づいてなかったという可能性もありますけど」


次に篠原が佐藤先生に呼び出される。委員長と言うこともあり、普段から呼び出しなんか受けない優等生なので俺だけでなくクラスのみんなも驚いていた。

それに戻ってきてからの様子も変だった。何だかそわそわしているような。


「あれは本当に驚きましたね。何をしたんだか聞いたんですがうまく誤魔化されました」


その後、佐藤先生が物影で二人の男性教員に言い寄られているところを梢と発見した。大声で先生を呼ぶと男性教員はそそくさと逃げて行った。梢は「ひどいね~。二人がかりで襲うだなんて」と怒ったように言った。先生は「最近あんなのばっかりで困っててね」と疲れたように微笑んだ。


「これも始めて見ました。先生は『あんなのばっかり』って確かに言ってたんですけど」


そしてその後、長谷寺太一と会う。気まずくて通り過ぎようとすると、向こう側から声をかけてきた。話題は「昨日は楽しかったか」とか「今日は何もないのか」とか「部活に来いよ」とかなんでもないことだった。


「その太一って奴は初登場だな。誰だ?」


「太一と拓斗は少し俺との関係が複雑で・・・・・・。後で話します」


「その様子だとやっぱり普段は話さないみたいだな」


「はい。いろいろあったので」


そして一通り授業が終わった時、哲が篠原を凝視しているのを見た。哲は少しも視線を逸らさず、ただ篠原の背中を見ていた。「どうした? あいつに気があるのか?」と聞いたが「いや、朝から様子が変だなと思ってさ」と言うだけだった。


「ん? それはおかしいことなのか?」


「哲はあまり人に興味を示さない奴なんですよ。確かに呼び出されてから様子がおかしかったですけど、微動だにせず凝視するのはおかしいと思います」


そして学校が終わり、梢と帰ろうとしたのだが「ちょっと用事があるから。先に帰っててよ」と言われた。


「・・・・・・え? そんだけ?」


「あいつは例え二時間、三時間待たせることが分かっていても、『先に帰ってて』なんて俺に言ったことがないんですよ。今思えば、『登下校は絶対一緒ね』て言ってたほどです」


その事を思い出して泣きそうになる。あの幸せな日々はもう戻ってこない。

だが泣かない。泣くものか。きっと梢も我慢している。俺が泣いたら彼氏失格だ。


梢に断られ、哲はもう帰っていたため、俺は一人で帰った。そして俺が死ぬほんの少し前、つまり駅に着いたとき、篠原と太一が一緒にいるのを見た。俺は特に気にせず、そのままホームに入っていった。これから殺されると分かっていたら、もちろん気にしていたのだが。


「駅にいたのか。まぁ必然的にその二人が最有力容疑者になるな」


「そう思いたくはないですけどね」


「そう思いたい奴なんていないだろうが。・・・・・・まぁ当然気づいてるんだろうな? この事件の厄介さに」


「えぇ」


アリバイは死神に調べてもらえばわかる。そうじゃなくて、この事件は・・・・・・


「俺から見た『事件当日』では・・・・・・何も起きていない」


「その通りだ」


死神はそう言った。


「おそらくお前の見えないところで物語が動いていた。言うなら、お前は完全に『蚊帳の外』にいたわけだ。そしておまえの気づかない間にお前が殺された」


「だから・・・・・・今のままじゃどうやっても解決できない。まずは物語を知らないと。あるいは」


俺は二人の人物を思い浮かべながら続ける。


「俺に日頃から恨みを持っていたやつが、当日の出来事とは関係なく俺を殺した」


「心当たりはあるのか?」


「あります。正直他の人より可能性があります」


その二人も、かつては哲と同じく親友だった。





「宮本拓斗と長谷寺太一。この二人は俺に恨みを持っています」


「じゃあそいつらから始めるか。俺たちの裁判を」


死神は決め台詞のようにそう言った。

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幽霊裁判 ~俺と死神の犯人探し~ 覇丸 @20170318

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