闇に蠢く

 もう少しで日が沈みそうな時刻に、ランニングへ出かけようとしたところ、小学生の姪甥がついてくるという。

 秋風が寒かったので、二人に厚着をさせて、公園へ向かうことにした。

 小さな子供を連れて道を走るのは気をつかう。二人だとなおさらだ。

 車も怖いが、アスファルトの地面も転んだ時のことを考えると不安になる。

 しかし、土の道など近所にはない。

 公園に着いたので、ジャングルジムなどで姪甥を遊ばせた。

 常に二人を視界に入れ、危ないことを始めたら声をかけつつ、私は鉄棒で懸垂をしたが、しばらくして空がすっかり夜になってしまったので、帰ることにした。

 帰りは遠回りだが、車の通りの少ない道を選んだ。

 川沿いを歩いている最中、その日が満月だったことを思い出し、三人で空を探したが、工場に邪魔されて見えなかった。

 残念に思いつつ、私が川縁に視線を落とした時のことだった。

 暗闇の中に、さらに濃い闇の塊があり、もぞもぞと動いている。

 「何かいる」と私が指さすと、二人も同意した。

 姪が「猫かな」というので、草の生えている傾斜地に足を踏み入れ、少し近づいてみたが違う。犬でもない。どうやら草を食べているようだ。

「ラッコじゃない」

 背中越しに甥が小声で言ったところ、姪が「日本にはいないよ」と返した。

 三人で話し合った結果、カワウソではないかということになり、帰宅した。このあたりにカワウソなどいるのだろうかと思いながら。

 散歩での出来事を、姪が私の母(彼女の祖母)に報告したところ、「それはヌートリアだよ」と教えてくれた。

 確かに、闇の中のシルエットを思い返すと、それはヌートリアのものだった。

 正体を知ってしまえば大した話ではない。

 しかし、闇が夜を支配し、科学も今ほど進んでいなかった江戸時代以前の人々が、暗闇の中で様々な異形のものと遭遇したのは、ごく自然なことだったのだろうと改めて思った。

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