ぞわぞわ

 昔、どういう場所か知らぬまま、友人に連れられ、ユートピア加賀の里に行ったことがある。

 一言でいえば、宗教施設というくくりになるのだろうが、私の出向いたあとに色々とあり、名称の変更や休業を繰り返しているらしい。

 現在は、珍スポットとして一部で有名と聞いている。


 車で施設に近づくと、遠くからでも観音像が見えた。

 高さは七十メートルとのこと。

 私は仏像が苦手なのだが、ある程度大きくなると平気なようで、この像を外から見ている分には大丈夫だった。

 しかし、施設の中はちがった。


 まず、くだんの観音像は胎内巡りができたので入ってみると、中には金色に輝く仏像が、整然と数えきれないほど並んでいた。

 そして、どこからともなく水の落ちる音が聞こえた(記憶違いの可能性あり)。

 私は恐怖のあまり声が出ず、体中がぞわぞわとして、その場に立ち止まってしまった。

 そして強い眠気に襲われた。

 私は恐ろしい目にあうとなぜか眠くなるのだ。

 そんな私にかまわず、友人が先に行ってしまったので、急いで彼のもとに駆け寄った。

 私が女の子であったなら、彼の服の袖をかわいくつかんでいただろう。


 続いて、横長の広い部屋に入ると、釈迦の半生を表したジオラマが設置されていたのだが、一望した瞬間、体のぞわぞわが止まらなくなり、足がすくんだ。

 通路横に白い砂が敷き詰められており、そこに設置されていたスポットライトで、奥側の仏像群が照らされていた。

 暗闇。極彩色に塗られた像。場に適した選曲のBGM。

 笑いながら「ちょっと怖いな」と話しかけてきた友人を無視し、私は地面から目を離さずに通り過ぎた。


 息も絶え絶えな私にとどめをさしたのは、三十三間堂であった。

 長方形の部屋は階段状になっており、無数の金色をした仏像が安置されていた。

 勝手に彼らの視線を感じながら、私は激しい動悸に襲われている胸に手をやりつつ、下だけを見て、足早に場を後にした。

 とにかく青い空を見て安心したかった。



 上は、たまたま三十三間堂の画像をツイッターで目にし、思い出した話である。

 おそらく、忘れたいほど怖かったのだろう。

 そして思うのだが、もしかしたら本当に恐れを覚えた体験の中には、記憶から飛んでいるものがあるのかもしれない。

 私だけの話ではなく。

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