仏間の写真

 勝手にひとりで怖い思いをしていた話を思い出した。

 いままで、あれこれと乏しい実体験をひねりだして書いてきたのに、どうして忘れていたのだろうか。


 私には、私が生まれる前に死んだ叔父がいる。

 小学校にあがる前に亡くなったそうだ。

 私の生家の仏壇には、叔父を写した白黒写真が飾られていた。

 写真の大きさはハガキぐらいであった。

 かわいらしい子供が写っているだけの写真なのだが、私はこの写真がいまでも怖い。

 八方睨みということばもあるが、どこから写真を見ても、叔父さんに見られている気がしたのだ。

 なるべく仏間には近づかないようにしていたが、家族に仏壇のお供え物を取ってくるように言われた時などは、叔父の視線を避けながら物を取って台所に戻った。

 背中に叔父の視線を勝手に感じながら。

 先ほど、かわいらしい子供が写っていると書いたが、それは私の叔父に対するへつらいの部分もあり、正直、個人的には気味の悪い写真と思わぬでもなかった。

 しかし、こういう叔父に対する悪口めいたことを書くと、なにかよくないことが自分の身に起こるのではないかと少し不安になる。

 早くに亡くなってかわいそうとか、自分がうらやましいのかもしれないな、というような考えが頭に浮かぶと、叔父さんの気に障るのではないかと自分の考えを打ち消そうとした。

 すると、仏間の写真が浮かび、脳裏からなかなか離れなかった。

 たかが写真と頭では思うが、怖いものは怖いのでしかたがない。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る