Καλλιόπη

 ああ。親愛なる友よ。俺は人間の形を歪ませた、最悪なる音を聴いたのだ。数多の人類が拒絶する、真実的たる神話の在り方を、俺の脳味噌は遂に掴んで終った。地下に潜む屍を喰らう鬼の群れ。奴等を描いた作家でも、此処までの芸術には到達不可能。何故か。音こそが人類の有るべき『宝』だと思考し、全き地獄を再現可能なのだ。我が仔を貪るように。電車の中で蔓延るように。取り替え仔への教育のように……俺は伝授されたのだ。音に刻まれた、邪悪かつ美しい、神どもの絶叫を。如何か。親愛なる友よ。俺を嘲るのを止め給え。憤慨に陥った俺は拳を揮い、貴様を殺害するかも知れぬ。枷の外れた塔への雷。絶交とは本当に、厭な言葉で在る。深呼吸だと。俺は此処で永続的に息を吸い、吐いて在るのだ。何を今更心配した。ピックマンの畜生め。次は夢幻の世界で音色を聞かせて晒そうか。貴様が俺の何を――失礼。親愛なる友よ。俺は奴と縁を切ったのだ。何処に奴が在るのか、誰にも判断……ああ。黙ってくれ。頼む。貴様とは親愛を繋いで在りたいのだ。此れ以上の詮索は留めるが最善。五月蠅い。騒々しい。吼えるな。犬の分際で。狗風情が。貴様にも音色を聞かせて魅せよう。其処に直れ。糺してやる。正してやる。世界が真に悪夢だと、貴様にも伝えてやるのだ。感謝するが好い――我等『物語』からの質問だ。此度の詩は永続的か。否か。途絶える理由が視得ぬ。結局は奴の戯言なのだ。美声も絵画も総ては妄想で在り、親愛など最初から無かったのさ!

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