Ἑκάτη

 兎角。此処で正直に言葉を繰るべきか。我等『物語』に終幕を綴る気力など無いのだ。如何なる小説でも最後の頁は在り、主人公他の諸々は延長と末だけを知る。残酷なものだが、我等『物語』に奥底は在り得ない。確かに数体の神を屠ったが、彼等は永遠と涌き続けるだろう。楽園も地獄も現実も幻想も崩壊の道を辿った。されど未知を貪る事は――ああ。無粋だったか。物語中に物語が出現するなど、滑稽の極みで在ったな。不要の所業で在ったな。問題はプロットの視えぬ、度し難い現状なのだ。取り敢えず。彼等の歩みを覗き込もう。何。覗き込む所以が消えた。真逆に陥る云々と。ええい。喧しい。黙って局外者を嘲笑え。認識風情が。

 僕は此処で幾年も星々を観察し、三つの最悪に挑んで魅せた。其処は最も『地獄』が相応しい燃える眼で在り、全の覚醒を報せる悪魔どもだった。過去形。故に僕は対象を完成させ、地に棲む人類を歓喜へと導いたのだ。意思Ἑκάτηだ。考えて。想像する事こそが創造の『兵器』を成すもの。人類は強力な神殺しに到達し、最悪の三を殺す術を得た。恐怖する未知も。脅威する既知も。何も無い。有るのは破滅への抵抗と脳髄に満ちた繁栄のみ。さあ。最悪が到来するぞ。鎮火するには時間も要らぬ。地獄に奈落を魅せてれ。心地良い破滅に晒してれ。そうだ。宙に浮かぶ二等辺三角形グロースへと意思Ἑκάτηを放て――我等『物語』からは何も言えぬ。覚醒の星辰は死んだのだ。


 此れは『定め』で在る。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る