色彩の魔法

 Magic――皆を魅了する愉悦の輝き。誰もが欲する星々の未曾有。如何なる存在でも抱擁する幸福の渦。廻り始めた世が無機質を殺し、数多に普遍性を齎す。私は過去。母に魔法を教えて貰った。私は現在。周囲の人間から魔女と呼ばれる。魔女だ。魔女を殺せ。魔女を焼き滅ぼせ。魔女を絞め殺せ。魔女の肉を貪り尽くせ。魔女の存在を赦すな。魔女。魔女。魔女の糞だ。糞も喰わせ――魅了は毒だ。私は結局、磔刑を待つ哀れの肉人形糞尿袋と成り果てた。魔法Magic悪魔ゴーントを招き入れ、夜の三日月を赤に染める。此処には神など存在しない。存在するのは悪い女と嘲笑と恐怖。未知も無い。既知に塗れた人間どもの錯乱だ。私が人間彼等に齎したのは何だ。群れる魚の跳ね廻り。弾ける茸の増殖。岩が柔らかい甘味――確かに等価交換では有った。されど必要な諸々は私が用意した。女子供もに与えた。変貌すべき人間奴隷も造った。甘いグハジも充分に揃え……何が要らない。何が要るのだ。私は人間が理解不可能。私は魔女だと罵る奴等が理解不可能。セイレムの悲劇は繰り返さず、現までを謳歌した蟲。私の脳味噌が爛れ――思考も困難だ。嗜好も困難だ。後は叫ぶだけだ――ああ! 私を殺した貴様等を呪って晒す! 私を嘲った貴様等を嗤って晒す! 私を恐れた貴様等を――啜って。渇かす。解き放つ。私の世界を解放する!


 Magic――皆を抱擁する色彩異次元の輝き。宙へ還る。

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