一なる呪い

 鎖帷子――愚痴の言い伝えでは――強固な金属塊は蜘蛛の糸を拒絶すると聞く。莫迦な。在り得ない。神に近い存在を退け、呪いの所業を回避可能とは想い難い。通り越えた無謀な輩は面倒を圧し憑けたに違いない。視るのは山奥だと思考せよ。失礼した。私の貌を嫌悪する諸君に説く己が阿呆で在った。ならば証明すべきだ。鎖帷子夢物語を装着し、勇ましき民を送り給え。何だ。震える肉体の英雄だ。結局は蜘蛛をれて蔵に篭るだけか。糞尿に塗れた人の害――繁栄と進化を忘れた悪質――の群れ! 寄越せ。私直々に鎖帷子夢物語を殺して糺そう。ええい。ヤカマシイ。餓鬼頽廃を望む貴様等は蛆虫米粒でも啜るが好い――奴等め。本当に蛆虫を貪り始めるとは。此方の嘔気も考えるべきだ。兎角。現状、私は山を歩んで在る。撫得亜視堕奴零ヴーアミタドレス山だと誰が吐く。何処の餓鬼阿呆が綴った名前だ。胎を抱えて嗤う、悪魔も吃驚奇々怪々だな。


 〽撫でると得する亜種混合

  視たら堕落だ奴隷々々

  零。零。零と歌えば 呪い零や

  あっこの山は撫得亜視堕奴零ヴーアミタドレス

  鎖帷子で固めりゃ 不可思議零よ


 詩を反芻する脳髄よ。私に不快を齎すな。私に餓鬼を想起させるな。胎が滾る。撫でるのは怪奇どもだ。私の頬を掠る、悪魔どもの囁き風だ。されど恐怖は皆無。何故か。私には逸脱的な精神が在る。鎖帷子夢物語の遊戯など不要。頑健な己単体で充分なのだ。誰もが羨望嫉妬を抱擁し、私の肉を睨んで貫く――まあ。追放された私に『奇妙な眼』は刺さらないが! 素晴らしき解放感。呪い尽くされても構わない。登れ。昇れ。足が崩れるまで。綴れ。描け。腕が壊れるまで。虚空に墜ちた人物を脳裡に進め。私は何物だ。供物だ。故に……重いな。肉体が軋む。鎖帷子夢物語は脱ぐべきか。更なる解放感が身を穿った! 登攀再開だ。登れ。昇れ。足が崩れる。綴れ。描け。腕が壊れ――解放感。私は何処だ。貌が無いだと。撫得亜視堕奴零ヴーアミタドレスが遠く下。


 〽撫でると得する亜種混合

  視たら堕落だ奴隷々々

  零。零。零と歌えば 呪い零や

  あっこの山は撫得亜視堕奴零ヴーアミタドレス

  鎖帷子で固めりゃ 不可思議零よ


 〽こりゃあ失礼 旅人さんや

  外してみりゃあ これまた零や

  呪いを受けたら 肉零やった!

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