羽搏く

 抓んだ。摘んだ。僕は貴女を踏んだ。誰にも赦されない、命への冒涜を行った。悪魔の囁きがを憑き飛ばし、女神様貴女の幸福を奪い去って終ったのだ。貴女の存在は僕の両腕で絞め殺された。花の蜜よりも優しく、甘い悦の表現。ああ! 誰か。僕の心臓を突き刺して――僕の歯車衝動を狂気に導いて――貴女と同じ空間で在りたい。君は何だ。もしかして。僕を貴女の隣に連れ去る天使。素晴らしい。神は本当に微笑んだのだ。有難う。有難う。在り我問う――僕は身を投げた。虚空への精神を墜とした。夢の渦巻きに束縛され、嘔気の底へ羽搏いた。天使の貌が判らない。きっと。優しい貌なのだ。幸福へと呑み込まれる、僕は……貴女だ。貴女の声が聞こえる。方向は何方か。←↑→↓と心身が回転し――覚醒は刹那で、僕は柔らかなものを覚える。後頭部を包む温かな愛。貴女だ。貴女に会えたのだ。首の痕が可愛らしい。だけれども。畜生! 何故だ。天使よ!


 ――貴女。四枚の葉っぱが感情を隠すなんて!


 殺人羽搏きは無意味に否定された。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る