遅延性

 彼の物語は遅延性の眩暈だと説かれた。専門家連中の吐いた言葉も陳腐に融け、渦巻く物語へと呑み込まれた。故に彼は連中を嘲笑い、唯一の理解者を求めて筆を執る。其処には芸術性が在るのだ。人間の感情を抉り攫い、真の恐怖を生む。彼曰く――人類の最も旧く最も強烈な感情は恐怖――だ。美しい文章は現実性グロテスクを忍び込ませ、世界に偉大なる神話を伝達させた。ああ。如何か。彼のみに感謝と喝采を……悦びは永劫設定に塗り潰されて! 失礼。彼の為に綴るべき『此れ』に他者思考は不要で在った。超越性を褒め称えるのみ。何。私に用が在ったのか。彼の貌を語るのは後程で好いと嗤うのか。愚痴の頂よ。何。貴様の手に留まった、滴る黒色は……HAHAHAHA! 阿呆だな。日が違うぞ。太陽の熱と貴様の汗で汚物に視える! 遅延性めまいだけに戯れたのか。気でも触れたのか。まあ。此度は赦そう。貴様の脳髄Chocolateを舐って魅せよう。


   ――Nyahahahahahaha!!!


 私が莫迦だった。

 貴様の手に脳髄Chocolateが在るならば!

 遅延性Lovecraftも無意味に陥るな!

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