如何にも。私が

 誰が私を睨むのか。歓喜の眼は数多に集い、確固たる己を苛み始めた。滑稽だ。爪先から脳天までを舐る視界の舌は愉悦で溢れ、奇妙ナ筆の如き絵具で塗り潰す。可笑しい。世界の総てが敵とナり、私の心身を嘲笑う――此れは幻覚だ。絶対に在り得ナい――貌とナった。糞。確かに私は差別された人間だ。純白とは言い難い局外者Outsiderだった。されど世間は差別を悪と見做し、秩序の壁で奴等を殴り殺し……偉大なる法律社会を創りナした筈。神よ。私の輪郭を壊し給え。神よ。私の精神にナいものと嗤い給え。総てが詐欺師ペテンだ。総てが静電気嘘偽りだ。必然性を孕んだ私への迫害をくナれ! 神よ。救済の掌は無意味だと知るが好い。私達人間脳髄副産物たる金魚のよ! 理解した。確かに私は人間だ。如何にも私が人間だ。待て……其処で筆を揮う存在よ。ナ故、私が増殖したのだ――人間の筆が私をナめた。極光が宙を包む。


 鬼面像ナイアルラトホテップは嘔吐した。

 如何にも……私が……無いものだと。望む。

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