領域

 私は世界に蔓延する、人間の最も根源的かつ重要的な『もの』を、夢に求めると決めた。悪夢も正夢も総てを混沌と見做し、邪でも聖でも到達し難い、真なる『もの』を視るのだ。盲目たる私は誰にも邪魔されず、己の探索すべき道を歩む。本当に人間は素晴らしき器よ。感情。精神――私が覗くべき領域を切り開き、人間が初々と人間を理解する姿を晒し給え。問題は精神に這入る方法だ。何処かの阿呆が脳髄心臓云々と吐いたが、陳腐の極みで在る。解体された肉体に魂の有無を問うとは滑稽な。貴様等の所業は死への冒涜だと知るが好い。答えは周囲。即ち、人間の肉体が放出する『気』に在るのだ。空こそが精神の顕現なのだ。ああ。勿論、人間だけに限らず。魚面も屍鬼も果ては十字の月でも――気に包まれて在る。故に私は肉体と精神。身体と空気を融合させる術を完成させた。時空と繋がる方法応用よ。虚『空』の門を気に描き、人間の総てを燃やし尽くす。至極単純な蒸化だと表現も容易い。取り敢えず。私の存在で実験すべき。先ずは虚空を――一。全。球体。虹色。輝くのは何。さあ。人生は終に到るのだ。私は人間の精神に再誕し――熱い。燃える。息が……果てる。果てた。喪失と覚醒は刹那の苦難だった。奈落と楽園が殆ど同時に出現し、崩壊した心地。色は死んだ。窮極の門に見放された、人間だけの領域だ。私は何も。肉も骨も何も無くて。機械仕掛けの神じみた『結果』精神で漂うのみ。緩やかな流動に呑み込まれ、奥へ奥へと。無。もはや。私は何処に往くのか。己の存在も消え失せる寸前だ。否。私は私を維持する。思考を続けるのだ。根源に届くまで悪夢を抱き続けるのだ。其処に私は到達し――途絶え。個々が死ぬのは不変の所業。普遍的無意識の領域=流れが止まった。私は精神を知り得た。其処で蠢くのは力。人類が集った『支配』の力だ。ああ。畜生。こんなものは壊して終え。感情が――人間が生じさせた正夢など破壊して終え。私は無い拳を振り翳し……領域人類を。

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