指先に在るのは冷たい物体。眼前で触れるのは異形の全貌。某物語アウトサイダーの最後を彩る、私の心身は『鏡の怪物』に相応だ。舞踏の宴に混乱を招き、自己の容に恐怖する。呆然と佇む怪物は茫々たる窖に堕ち、元の空間に戻り狂うのだ。蠢く私は原始的ショゴスの如く、手足頭を無くして嗤う――もはや。食屍鬼とも。夜鬼とも解せぬ。私は鏡の世界に這入った、粘着性の猫なのだ。ああ! 自由気儘な動物の精神性だけが! 不定なる肉を動作させる。奈落よりも恐ろしいのは『停滞』だ。私は進化も退化も忘れ、留まり犇めく人間の如く……積もりに積もった塵の如く。誰かが吐いた。人間こそが最も『局外者』なのだ。故に私は人間で。怪物で。永劫に生きる歯車で……音が響いた。耳も糞も無い『私』が音を聞いたのだ。虚空の如く傾くべき。さあ。何物が。何者が私の気を惹いた! 答えるが好い。応えるが好い。鏡は此処に在るぞ。私は此処に在るぞ。畜生ッ! 哀れな私が視えないのか。違うな。滑稽な貴様が視えないのだ。なあ! 私――偽り《鏡》を謳う愚物人間どもが!

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