彫像

 素敵だ。我が芸術活動の場に客が訪れるとは。兎角。其処に座せ。茶と菓子は即座に用意する。好みの味は何だ。甘味か。塩味か。辛味か。苦味か。飲料は如何に。珈琲。紅茶。緑茶――ああ。失礼。名乗るのを忘れて在った。我は※※※※で在る。有象無象の一個体たる、脆弱な人類だと解くべきか。貴様の名は要らぬ。要るのは『此処に存在する』事実だけだ。我が遊戯。我が思考に興味を持った、局外者outsiderだけだ。何処かの誰かは我を嘲ったが、貴様は違うと信ずる! 取り敢えず。作品を眺めるが好い。中途半端な物体多数でも、良質な時を提供可能。そうだ。目隠しは重要だ。出来損なった糞を視ずに『到着』する為に――良いぞ。布を払い給え。因みに祓う事は無い。我が芸術は神も恐怖させる故、祈りなど無意味だと知れ。観よ! 舐れ! 我が彫像の群れを。恐怖を象り、蠢いた石の生命を。人の破滅も神の絶滅も。総てを描写した。邪の極みを抉り執ったのだ。流石! 貴様の頷く貌が悦びの糧。さあ。続きだ。続きを造らねば。貴様も覗くべきだ。我が造る光景など、他者に晒すのは極々稀! 安楽椅子も設置すべき!

 ――完成だ。素晴らしい! 正しく『恐怖』のを成した! 如何だ。貴様の脳髄にも響いた筈……待て。貴様。其の輪郭は何だ。我が精神を蝕む、貴様のは何だ……我が造った……彫像に似て。

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