胎如何薬

 さあさ。皆様、寄ってらっしゃい。視てらっしゃい。

 世にも奇妙な粉末薬。

 胎如何薬たいどうやくの詩。謳い。

 荒唐無稽な話に聞こえ。

 聴けば吃驚真の噺。

 離れる前に訊きなさい。

 如何なる薬と想いなさい。

 さて。掌に取り出したるは、白の色。

 香りも味も無の極み。誰もが容易く嚥下可能よ。

 食物飲物流涎諸々。

 臓腑に融かすに楽々薬さ。

 老若男女に優しいものだ。

 母なる地獄羨んで。

 父なる楽園意を無くす。

 何故なにゆえ父を失くすのか。

 答えは単純。胎動に在り。

 一舐め。二舐め。三舐めと。

 腹が膨らむ。胎膨らむ。

 如何だい素敵な夢だろう!


 ――ああ。其処の奥様。折角なので。飲みましょう!


 何だい。何だい。信用できない?

 ならば拙者をご覧あれ。

 口元扇子を取っ払う。

 如何だい。如何だい。

 胎如何だい。

 薬のおかげで。

 膨らんだ女に!


 ――ああ! 押さないで。押さないで。一名様一袋!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る