無変なる現

 ギィィイーコォ。ギィィイーコォ。私の腕が鳴り響く。グチュリ。ニュルリ。私の足が啼き叫ぶ。ジリリ。ジリ。虚空の底で炎が嗤う。黒の最果て。融けて往く。されど私は此処を離れず、在る程度の物体だ。母なる地獄虚空は蜘蛛糸を無くした。父なる楽園底無も手招きを忘れる。故に私は蠢き続け、私の変態を待ち望む。不完全でも完全でも、私は『私』からの脱出を試みるのだ。超常の所業とも思考可能だが、私自身が局外者Outsiderで在る。如何なる神秘でも解けぬ筈だ。ならば希望は――縋るべき大いなる力――は何処。答えは単純。己の意志と解く。自身の内側に蔓延る、夢幻の世界を現に引き出すのだ。魅力的な己を惹き、偉大なる輪郭を成し遂げるのだ。鍵を天に掲げよう。銀色の輝きが充ちる時、私の世界は楽園窮極に到る。勿論、手順は必要不可欠だ。化身を名乗る人型に全を晒す――ああ。何故だ。化身よ。何故、私を置いて去る。否。私を投棄した。貴殿ならば解る筈だ。私が蠢くだけの存在で成る所以。私が地獄にも楽園にも見放され、自我を保つだけの所以。教え給え。角度に棲む怪物が、私の魂を貪る前に――結局。私は『生』を維持して在った。猟犬にも追跡されず、私は此処で『吹く』のみだ。過去現在未来。何処の世界でも。私は――ギィィイーコォ。グチュリ。ジリリ――無変――鳴り。啼き。嗤われ。蠢き――永久なる現。

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