父なる楽園

 黒山羊は成った。されど我等には父が足りず、無性生殖では生れぬ。始めるべきは楽園の創造だ。我等人間は想像で神を――極楽の領域を――謳う故に。領域。必要なものは空間だ。空間とは時が孕む、極彩色の未知で在る。何処にも有る物体で、何処にも無い物体だ。如何なる所業を行うべきか。真の楽園は父で御粉Ibn Ghazi え。不可視を観よ。必ず父は応えるだろう。必ず父は起きるだろう。起きた父こそが母を混ぜる。混ざった母こそが父を繋ぐ。ああ。地獄とは即ち生命世界で楽園とは即ち世界と理解せよ。不変的にも無聊だが、世界の理は崩壊不可能――既知なる戯言。

 さあさ。此処等で話題を変える。我等の解くべき宇宙的恐怖物語とは何か。黒山羊極彩範疇外だ。彼等は結局物語に過ぎず、真の未知とは違ってしまう。ならば我等は何を綴る。筆を奔らせる所以は何だ。所以は、勿論悦びの為。執筆者が望むのは読者の貌だ。混沌よりも秩序を。規則の線路に下るのみ。ああ。だが。我は御大諸々冒涜。暗黒神話も嘲って魅せる。逸脱し難い現状だが、我は純粋な未知で満ちたい。充ちた道には無貌が残り、誰の歓びも映らないが!

 映るのは其処の父母程度。黒山羊が膝元で「めぇ」と啼き。極彩色が頭上で「よぎゅ」と蠢く。黙れ。我が執筆の邪魔を為すな。貴様等の存在を抹消するぞ。糞。失礼。幻覚が酷いのだ。暗黒神話の狂気どもめ! 我が脳髄は抗う事に特化する。融ける筈がない。無いのだから。此処にはマヤカシだけがノタウツ!


 ――蚯蚓文字。判読不可能。


 誰だ。我が耳朶を擽る、狂乱を奏でる存在は。誰だ。我が暴走を促す存在は。神か。神だ。狗も猫も喰わぬ、酷く滑稽な餌だ。我の食物が何用か。食物は白蛆で充分よ。黙れ。貴様等に価値は無い。無いのだ。我は未知を綴るべく――!


   極彩色ヨグ=ソトホウト

   我は既知に呑まれる!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る