03話 日本からの転移者の孫
逃げるか?
……いや、逃げたって追いつかれるだけだ。
じゃあ、どうする?
……戦うしかないだろう。
勝てるのか?
……負けるだろう。
僕は自問自答を繰り返し、自分の中で答えを出し、それを実行する為に勝負に出る。
……前言撤回します。
戦いません、逃げます。
僕は地面に手を突き、【錬成】と言って地中にある鉱石を操り、ゴブリンキングの足を動かせないように固めて逃げた。
【錬成】 鉱石を操る事が出来る。鉱石を操るには、直接か間接的に触れていなければならない。
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僕は後ろを振り向かずに走る。
足音で分かるのだが、後ろには僕が【錬成】を使って作った枷を壊したゴブリンキングが、僕を追いかけて来ている。
僕はなんとか撒こうと思い、所々に生えている木で僕の姿がゴブリンキングに見えないようにしながら走った。
だが、そんな簡単な事では無かった。
確実にゴブリンキングは、僕の方へ近づいて来ているのだ。
撒ければ良かったのだが、どちみちもう逃げるのはやめなければならない。
これ以上逃げると森から出てしまうからだ。
森から出てしまうと、村の住民に被害が及ぶ。
……勝負するしかない。
今も徐々にゴブリンキングは僕に近づいて来ている。
……奇襲をかけよう。
ゴブリンキングの後ろに回り込み、一気に畳み掛ける。
もうそれしか勝機はない。
……ふぅ。
精神を統一させる。
ゴブリンキングが僕に背中を向けた時に起こるたったの数秒が僕の最後の命綱。
……ゴブリンキングが僕に背中を向けた今がチャンスだ。
僕はそれを逃さず、ゴブリンキングの後ろ首に斬りかかった。
だが、ゴブリンキングはそれを待っていたかのように僕の方へ振り返り拳を振り下げた。
その拳は僕に直撃し、吹っ飛び、最後には木へと衝突した。
衝突した衝撃で、肺から空気が漏れ、そして口から血液が吐き出される。
ゴブリンキングの拳を腕でガードしようとしたが、それは無意味に終わる。
何故なら、ゴブリンキングの圧倒的攻撃力で僕の腕の骨は折れ、そしてそのガードを潜り抜けた拳は僕のあばらを殴ったからだ。
あばらを殴られた影響で、僕の肋骨は何本か折れた。
痛い。痛みで視界が定まらない。
足音でゴブリンキングは僕に近づいて来ている事が分かるのだが、逃げる事が出来ない。
物理的にも、精神的にも、だ。
……ゴブリンキングの足音が止んだ。
ゴブリンキングはもう僕のすぐ側まで来ているって事なんだろう。
ゴブリンキングの姿を見る事も出来ない。
見る勇気が全く起こらない。
何をやってるんだろうな、僕は。
必ず帰るって言ったのにな。
たったそれだけの事を守る事が出来ない。
情けない。あれだけ行かないでと言われたのに、僕はそれに従わなかった上に死ぬなんて愚かすぎるよな。
……ゴブリンキングはとっくに僕の目の前にいるはずなのに、何故死なないんだ?
そう思った瞬間、僕のすぐ横で何かが倒れた音が聞こえた。
僕は何事かと思い、最後の力を振り絞って顔を上げた。
そして、僕の瞳に映ったのは黒い髪の綺麗な女性だった。
そこで、僕は保っていた意識を手放した。
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「こんな小さい子が、なんでこんな所にいるのかしら?」
そう言ったのは、リウルの前に現れた黒髪ロングの綺麗な女性だ。
その女性はリウルへと手を伸ばし、【リカバリー】と言った。
そうすると、その女性の手は淡く光り、その光りはリウルにも広がり、リウルが負っていた傷をみるみる治癒していった。
「よし、手当ては済んだから、後はこの子を近くの村へ運ぶだけね」
その女性はリウルをおんぶし、歩き始めた。
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僕は目を覚ました。
どうやら僕は生きているみたいだ。
そして僕はゆっくりと体を起こし、辺りを見回した。
そこには両親、リリナ、ルミア、ルミアの両親、そして見知らぬ女性が座っていた。
「大丈夫? 一応手当てはしたのだけれど、どこか痛むところはないかしら?」
僕は声がした方向に向き、「大丈夫です。あなたが助けてくれたんですね。ありがとうございます」と言った。
「いや、いいのよ。冒険者が人々を助けるのは当然の事なんですから」
「はい。あの、名前は?」
「私の名前は【
「はい。……桜さんは日本人みたいな名前ですね」
僕は言ってもいいのかな?と思ったけど、言ってしまった。
「リウル君。どこで日本人なんて単語を覚えたの?」
「どこでって言われても、僕が昔、日本人だったからって言うしかないんだけど」
「でも、あなたの名前は……」
「はい。今の僕はリウル=エルリオン。ですが、昔は佐藤 悠真だったんです。多分桜さんの祖父や父親が日本から転移して来た人達だと思うんですが、違いますか?」
「そうね。確かにおじいちゃんがこことは違う別の世界から来たって言ってたわ」
「やっぱりそうですか。前々から気になっていたんです。僕みたいな転生者がいるのなら転移者もいるんじゃないかって」
「……リウル君。話を変えるのだけど、どうしてあんな危ない所に一人でいたの?」
「地獄を見たからでしょうか」
「地獄?」
「はい。僕は今の人生が三度目なんです」
「三度目という事は、リウル君はもう既に二度も死んでいるという事よね?」
「はい。それもどちらも15歳という若さでね。一度は日本でトラックに轢かれて死に、二度目はこの世界ではぐれ冒険者に殺されたんです」
「……ごめんなさいね。嫌な事を思い出させてしまって」
「いえ、いいんです。僕が死んだのは、全て自分が弱かったからなんです。一度目は心が弱かったから死に、二度目は身体的にも精神的にも弱かったから死んだんです」
「リウル君が今まで生きて来た人生そのものが、地獄というわけですか?」
「そうですね。でも、僕が最も地獄だと感じたのは、二度目の人生の死に際ですね」
「……聞いてもいいですか?」
「言ってもいいのですが、少し話しづらいんです。ですので、二人で話す為に少し移動しましょうか」
僕はそう言いながら起き上がり、桜さんと共に部屋の外に出て行き、一つ横の部屋に入り、腰を下ろしてから話を始めた。
あの、成長チートって何ですか? 〜レベルを上げても(表)ステータスに反映されてないんですが~ 夜神月 月詠 @bell8864kazuma
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