ギルドの掟
次の集落までは、ゆっくり歩けばあと二日ほどかかる。あの村の住人が吟遊詩人を誘拐犯として手配するかもしれない。
そうだとしても、吟遊詩人にはあまり関係のない話だ。しばらくは集落に寄らず、旅するつもりだったのだ。
「賞金、どうするんですか?」
「首を置いてきたからね。あいつらが勝手に換金するだろうな」
「それって」
「まぁ、見る人が見れば分かることだ。
残り一割が討伐者、つまり吟遊詩人のものとなる。討伐者が名乗らなかった場合は、それ相応の手続きをすればいいだけだ。まず間違いなく、全額貰おうとして捕まるはずだ。
手続きの話は、フィアも知らなかった。
「通常であれば、知ることのない知識だ。冒険者たちを守る仕組みの一つだな。冒険者とて、事情聴取されるんだ。どうやって倒したのか、どういう倒れ方をしたのか、武器は何を使ったのか、相手は何人で、こちらは何人だったのか、それ以外も聞かれる」
「うわぁ」
「そうでもしないと、誰の手柄か分からないだろう? 誰しもすぐに首を届けられるわけではない」
「そういうものなのですか?」
「そういうものだ。例えば、魔獣の殲滅依頼を受けていたとしよう。その魔獣は凶悪で獰猛。すぐに討伐せねばならない。道中で山賊にあった。倒したが急いでいたため首を保存する余裕がない。そのままにしていたものを、他の冒険者が見つけた、という可能性もある」
そこまで言えば、フィアも分かったらしく何も言わなかった。
「君のお父上が少しばかり金を渡してくれた。集落に行かねば使わない金だが。この先は川沿いを歩く」
「え?」
「水場確保のためだ」
歩いて旅するには街道が一番だが、今回はそうもいかない。奴らが自滅するまで集落に寄らないのが一番なのだ。
だが、翌日に使い魔が飛んできて、杞憂に終わった。
村長が当たり前のように山賊の首を持っていき、詰問にあったという。「村人が協力して倒した」などと馬鹿げたことを言ったのだ。それが嘘だというのはすぐにばれる。ばれたあとは「旅の人が倒して颯爽と消えた」とか「顔も知らぬ人が倒した」だとか数人の証言が食い違った。その時点で投獄されるに決まっている。
二度目の時に「倒してもらったが、名乗らなかったうえに、村の手柄にして欲しいと言われた」と全員口裏を合わせていれば、こうはならなかっただろう。
あと数日川沿いを歩いて、近くの都市に寄ればいい。そう結論付けた吟遊詩人は、今夜も子守唄を弾く。
ポロン、ポロンと一音ずつ奏でていく。それに川のせせらぎが混じる。
焚火は吟遊詩人が適度な大きさになるよう、絶やさずに薪をくべる。
「久方ぶりだな、ここまでのんびりするのは」
吟遊詩人が覚えている限り、ここまでのんびりとした夜はそうそうない。誰かしらと旅をしていたとしても、気が休まることなどなかった。
どれだけ安全な旅だろうが、常に気を張っていた。否、現在も気を張っている。それなのに穏やかに感じるのだ。
それはまさしく
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