第7話 小麦粉ヤクザ、最早絶望す
優達一行は岩壁地帯を抜けて砂漠に入っていた。
兆候が現れたのは十分ぐらい経ってからだろうか、三角波のような砂丘が地平線の彼方まで無数に重畳している、その砂丘を突っ切るように一筋の線が延び連なりこちらへと向かってきている。
「おい、ありゃあ一体」
優は助手席に座るリーヤに尋ねた。とうのリーヤは信じられないものを見たという顔をしており、突如として血相を変えて叫び出す。
「嘘やん、まさかここまで生息範囲を広げたちゅうんかいな……あかん、オッサン急いで逃げや!」
遅れて運転席の窓を外側からクーエーンが叩く、彼は今までトラックのボディの上にマサンと共に乗っていた。今は飛び降りてマサンに乗ってトラックと並走している。
「マグツツドュル! キニ ペリグロソ ダラガン ダヨン!」
リーヤと同じく血相を変えたクーエーンが何事かを叫ぶ、一々翻訳を聞くまでもない、危険だから逃げろと言っているのがわかる。
優はアクセルを踏み精一杯の速度を出す。
「何なんだよあれ」
「マナ・ザラガール、さっき言った街道に現れたモンスターや。まさかこんな所におるとは思わんかった」
トラックとそのマナ・ザラガールとの距離は一キロも離れていない。その上向こうの方がやや早いため徐々に詰められている。
彼我の距離八百メートルになった頃、ついにそれは姿を現した。
爆発に近い音をたてながら砂を噴水のように巻き上げて、砂中から塔が突き上がる。
直立した塔は真ん中で折れ曲がり先端部をトラックに向ける。
塔のようなそれは、大きな
直径は十メートル程、開いた口の裏側にはナイフのように湾曲した歯がビッシリと並んでおり、更に触手がうにょうにょと漂っていて嫌悪感を催す。
環状の体節が直列に並んでいるのは
「きめえ!!」
マナ・ザラガールを初めて見た優の感想はそれだった。
虫嫌いの優にとっては恐怖でしかない。そうでなくても恐怖ではあるが。
追いつかれたらトラックなど一呑みだ。
しかしこのままでは追いつかれてしまう。
「逃げるのはどう考えても無理だ、何か対策はないのか!?」
「んな事言われてもやで……そや! ロケット弾とかないん!? めっちゃ強いんやろ?」
「RPGとかの火砲はねえよ、ライフルと散弾銃だけだ。あったとしてもアイツを倒せるとは限らねえ」
そうこうしている間にもマナ・ザラガールは接近している。近付くにつれて圧迫感がつよまり焦燥がつのる。
すでに地表に全身を晒したマナ・ザラガールは体をくねらせながら丸い口を大きく開いていた。全長は二百メートルありそうだ。
「ツンゴド カイアコ マヒモング ウサカ パングリングラ、モラヤス サ カサムタンガン」
「クーエーンが、自分が囮になるからその間に逃げろやて」
「断る。死ぬのは勝手だが、今囮になったところで大した意味は無い。すぐに食べられてこっちに来る。どうせ死ぬなら俺の役に立ってから死ね」
「伝えるわ、ナグウル アコサ ディハング イコウパティナ」
「えらく短いな」
「お前が死んだら悲しいつっといたわ」
「今すぐお前をあの
因みにクーエーンは目に涙を浮かべて感激の表情をしている。クーエーンの中で優への忠誠心が鰻登りである。
「とにかく、アイツを何とかしねえと」
そろそろ六百メートル以下にまで詰められた頃か。
「何かこう爆弾みてえのは、つうか
「なったらとっくにやっとるわ! そもそもウチが使える
「つっかえねえなおい!」
「やかましいわ!」
打つ手がない。圧倒的に火力が足りない。ライフルでは当然倒せないどころか、そもそも砂丘だらけの砂地ではろくに銃を構えることすらできない。油断すればタイヤが持っていかれる、ゆえにまたリーヤに運転を任せるのもナンセンスだ。
「でっかい爆発、爆弾でもあれば……くそっせめて手榴弾だけでも用意すべきだった」
それで何とかなるとも思えないが。
マナ・ザラガールは五百メートル以内にまで近づいている。
「他に何がある…… 散弾銃、論外だ。あとは物資か、バラまいて時間を稼ぐか……」
そうすれば車体が軽くなって今よりは早くなるだろう、しかしそれで逃げ切れる保証もない。
だがこのまま食われるよりはマシか……。
「物資を全部捨てるか……」
「あかんて! それじゃ村が壊滅やで!」
「今死ぬよりはマシだ! それに物資の配送はあとで出直せばいいだろう」
「その出直すのはいつになんねん!?」
わからない、少なくとも対マナ・ザラガール用の準備をするだけでも、一週間から一ヶ月はかかるだろう。
そしてリーヤはその村が一ヶ月もたないと言っていた。
なれば、今ここで退く事は村の壊滅を意味する。
リーヤの問いには答えず、優は悪態をつく。それはただの八つ当たり、リーヤに当たらないだけまだマシともいえる。
「ちっ、
物資の中には小麦粉がある。他にも水や食料、おもに保存が効くもの。その中には砂糖もある。塩もある。
「はっはは」
自分の中に浮かび上がる打開策を思い巡らせると思わず乾いた笑いがこみ上げてきた。
「あるじゃねえか、特大の爆弾が」
「なんやおもいついたん?」
「ああ、妙案がある」
マナ・ザラガールとの距離は三百メートルをきった。
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