第8話 小麦粉ヤクザ、大爆発する
まず優はボディの扉のロックを外した。
「いいかよく聞け、これから小麦粉と砂糖を使って粉塵爆発を狙う。速度とタイミングが肝になるから俺の言う通りに動け!」
「わかったけど、粉塵爆発てなんなん?」
「後で説明する! まずは奴の口の中へ小麦粉と砂糖を投げ込め!」
「それならクーエーンに任せた方がええな」
リーヤは助手席のシートを乗り越えてボディ内へつづく窓を潜った。同時に優は並走するクーエーンに後ろへ行くようハンドサインをだす。
リーヤがボディの扉を開けて換気を良くした。バックミラー越しに背後を確認した優は、トンネルかと見まごう程大きく口を開けているマナ・ザラガールを見て背中に冷たいものが流れた。
「近くで見たらよりきめぇ、微妙にぬめってるのもまた」
「クーエーン! ツコーン サ ババ!」
「パギラ!」
小麦粉を投げろ。了解。と言ったところか、リーヤが十キログラムある小麦粉の袋を引き摺りながら外まで運び、入口の所でクーエーンに手渡す。
クーエーンはそれを軽々と片手で掴む。そして投石紐に括りつけてグルングルンと右手一本で大きく回し始めた、左手はマサンの手綱を掴んで体を固定している。よく見ると上半身も腕の動きに合わせ大きく回していた。
クーエーンはマサンの足を止め、ある程度回したところで小麦粉の袋を投げる。それは放物線を描いてマナ・ザラガールの口の中へとぽすんと落ちて僅かな小麦粉を舞い散らした。
「よしっ、上手いこと歯に引っかかった。今の要領であと二つだ!」
「よっしゃあ!」
時間はない、そろそろ百メートルになる。
リーヤが二つ目の袋をクーエーンに渡す。二回目でコツを掴んだのか渡されてから三十秒もしないうちに投げ込んだ。
三つ目は砂糖の袋だった。それは八キロだったからか二十秒で終わった。そこでマナ・ザラガールは速度を落とし、首を曲げ後ろへ力を溜める。
優の頭の中で陸上選手がクラウチングスタートを行うシーンが流れた。つまりはそういう事である。
案の定、マナ・ザラガールは突然爆発的な力を発揮して猪のような突進を見せた。
「捕まれええええ!」
リーヤが手摺に捕まるのを確認する前に優はハンドルを右へこれでもかときってトラックを横へ逸らす。やりすぎて車体が傾き始めてしまうが、その時丁度マナ・ザラガールが通り過ぎ、すれ違いざまにトラックの尻に掠った衝撃で運良く持ち直す事ができた。
「っぶねぇ……おいリーヤ無事か!」
「ウチは大丈夫……クーエーンも平気や」
クーエーンは変わらずマサンに乗ってトラックと並走していた。
ひとまず安心してから優はマナ・ザラガールを探す。左五十メートル先に尾がみえた。
頭の方は二百メートル先からこちらへと円を描きながらゆっくり移動している。口の中には小麦粉の袋が未だに歯に引っかかっていたが、触手を突き刺して取り外そうとしていた。人間で例えるなら、歯に挟まった食べカスを舌でとろうとしている状態だ。
「おいリーヤ! 袋を爆破して中身をぶちまけろ! 飲み込ませるな!」
「お、おぉ」
ボディの扉を閉めて再び助手席に舞い戻ったリーヤがマナ・ザラガールへと右手を伸ばす。こうすると狙いがつけやすいらしい。
そして袋が爆発して四散する、代わりに中の小麦粉が舞い上がってマナ・ザラガールの口腔内に充満する。二つ目、三つ目が爆発する頃にはマナ・ザラガールの口の中は白い粉で満たされていた。
「次は粉の熱を上げろ!」
「うん!」
リーヤが粉の温度を上げていく中、優はトラックを止めて寝台からライフルを取り出す。
奇妙な事に、マナ・ザラガールの動きが止まった。
「音、振動か?」
どうやら本当に
次に散弾銃の弾薬から火薬を除き、その火薬を煙草の箱に入れ、輪ゴムで拳銃の銃身に括り付ける。
クーエーンにそれを渡して。
「こいつを奴の口に投げろ」
「クハーイモング ババ!」
リーヤが優の意図を汲み取り翻訳する。
「パギラ!」
クーエーンは短く返事をすると投石紐を使ってマナ・ザラガールの口へ投げ入れた。百メートル以上離れているにも関わらずそれは弾丸のような速度で真っ直ぐ飛んでいった。
当のマナ・ザラガールは、口の中の状況に目もくれず頭部をあちこちへ回していた。
咳やむせたりしていないところから呼吸器官は口意外にあると思われる。
「はよせんと粉散るで」
「黙ってろ!」
優はリーヤを押しのけてライフルの銃身を助手席の全開にした窓に乗せる。そしてスコープを覗きこんで先程クーエーンが投げ入れた拳銃に括り付けた煙草の箱を探して、見つけて、狙って、撃った。
命中し、弾丸は煙草の箱を貫通して拳銃の銃身に弾かれる。その際一瞬だけ火花が生じて熱せられた小麦粉に引火する。そしてそれは付近にあった煙草の箱、そこに詰められた火薬にも引火して種火となり、更には発熱して燃焼点に達した他の小麦粉へと引火、熱伝導率が下がった粉末を燃焼が伝播しながら、最終的にビル一つ破壊できるまでの威力を生み出した。
優はライフルを手放してアクセルを踏む。爆発の余波に巻き込まれないように、あと万が一仕留め損なった場合に備えて少しでも遠くまで逃げるために。
幸いにも後者は気宇に終わる。
爆発が収まるとマナ・ザラガールの頭は半分が焼失していたからだ、流石に息絶えたようでその巨体は砂地に沈んだ。
「しゃぁっ! ざまぁ見晒せこのクソ
「オッサンやるな!」
「オッサン言うな! とにかくこれで安心して運べるな」
「ああそれやけど、さっきマナ・ザラガールとぶつかった時に物資のいくつかが地面に零れたから拾わなあかんで」
はたしてリーヤの言う通り、数百メートルに渡って物資が点在していた。
「まあ
溜息一つ吐いてから、クーエーンの手を借りて物資の回収を行った。
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