異世界の“真偽”はウソにあり
隊商国家ロゼッタへと戻ったボクらは酒場、ヘヴィ=ビルカへと着いた。酒場ではケレードを始め、冒険者が集まっていた。
「これが星の石か」
マスターはボク達が持ってきた石の前にして、そんなことを言った。
「手を触れずに空を飛び、星のごとくほのかに輝く。まさしくこれは星の石」
酒場で集まる民衆は星の石に魅入られる。
「ケレード。約束通り、星の石を持ってき――」
「認めない」
「認めない?」
「ワタシがキミに出した依頼は星の石の“真偽性”だ。大事なのはこの世界に存在することだ」
ケレードは椅子にもたれながら嫌味ったらしいカオで答えた。
「キミ達のガンバリは認めよう。ただ、依頼人の依頼を果たさないのなら、それは冒険者として失格。この街で依頼を受けるのは認めないよ」
トバは手を何度も何度も握りしめ、感情を抑えつける。
「それでいい」
マスターはトバで耳打ちし、ケレードの前に出てきた。
「ケレードさん、この星の石は異世界のものであることは認めるんですね」
マスターの質問に、ケレードは「そうだ」と言った。
「あんたも聞いたよな」
ボクは「ああ」と答えた。
「トバ。オマエに依頼がある」
「今、それどころじゃ――」
「レジェンド級の依頼だ。断る理由はないよな」
マスターがレジェンド級の依頼と言うと、酒場の騒ぎが静まった。
マスターは巻物の依頼状を取り出し、それを読み上げる。
「依頼人はホルスト前議長。報酬はロゼッタが所有する隊商隊の権利、つまり、ロゼッタの議長権。期限はホルスト氏の死後1年まで。依頼を果たせなかった場合、孫のフィーラに議長権を託すものとする。その依頼の中身は――『異世界があるか真偽せよ』」
マスターは依頼状を見せる。皆、その依頼状を見て、驚愕する。
「夢物語みたいな依頼だが、議長の依頼だから手を抜くわけにはいかなかった。半年間、この依頼を果たすために多くの冒険者を見てきた。どんなに理不尽な依頼でもうまくこなせる冒険者が見つけるまでオレはここで商売してきた。そして、今、その冒険者を見つけた」
マスターはトバの前に立ち、依頼状を差し出す。
「トバ。オマエが異世界の“真偽性”について証明してやれ」
依頼状を手にしたトバは酒場の台場に立った。
「何から話したら良いかわかりません。けれど、聞いてください」
酒場は沈黙に包まれ、皆がトバを見るとトバは話し出した。
「そこは星降る世界でした。夜空がキレイでした。星の石は地面にいっぱいありました。しかし、星の石が本物か確認するために、星海の灯台へ上がり、夜空から降ってきた星の石を手にしました。夜空から落ちてきた石はその世界にある普通の石と同じものでした。笑いました。自分の苦労はなんだったのか笑いました。でも、そうなるのも不思議はありません。なぜなら、星降る世界の人々を疑っていたからです。もっと早くその世界を信じていたら、こんな苦しい思いをしなくもすみました。
さて、星の石は異世界にあり、星の石は異世界のモノだと断言できます。それと、この世界における星の石の“真偽性”、つまり、存在しないことは、既に、確認していました」
酒場がざわついた。
「星の石の“真偽性”を確認したのはロゼッタ商会長、ケレード、あなたです」
「な!」
「あなたは星の石がこの世界にないと知っていた! しかし、異世界には星の石があった! この世界にはない星の石が異世界にはあった! これが異世界があるという証明です!」
「先ほど、ケレードさんは『この星の石は異世界のものである』とも言っていましたね」
マスターの言葉に、ケレードは頭を
「けれーど、ワタシは、そんなこと、言ったかな~」
「口に出したモノは戻さないよな、それぐらいの品性はあると思うが」
「けれけれけれーど! 星の石一つで異世界が証明できるわけが!」
「ケレードさん、ボクが預けた担保の一円。あんたにやるよ」
「……なんだそれ、異国の者よ」
「こいつはすごいよ。ボクの世界だとこの街ひとつ分買えるんだ」
「なんだ! そのバレバレなウソは! 誰が信じる!」
「ロゼッタの泉の一件は知っているだろう。あそこにいた奴らは価値が知っていたから大騒ぎしたんだよ」
「ホントにそれだけのものがこれに?」
「オレの世界に来たら大金持ちだぞ」
まあ、こんな真っ赤なウソに引っかかるわけが……。
「認めます認めます、異世界あるのは認めます」
守銭奴、少しは疑え。
「異世界に行けばお金持ちになれる。いいねいいね」
恍惚に満ちた笑顔。正直、気持ちが悪い。
「隊商隊は異世界には金、銀の神殿や、黄金郷があるとか言っていたが、もしホントならばいち早く行かねば」
なるほど、この街にいたら勝手にウソが異常にくっつくのか。そりゃ、情報の“真偽性”を確認するのが仕事になるな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます