星を落とす兵器


「星海の灯台、53階。終点です。お降りの際はお荷物のお忘れのないようにご注意してください」

 車内アナウンスが聞こえ、ボクらは異世界列車から降りる。

「長い旅だったな」

「えぇ……」

 トバはぐったりとしながら列車から降りる。随分と入り組んだ地形だったからけっこう酔ったのだろう。

「塔の景色良かったですね! 伝説級に!」

 一方、フィーラは随分と楽しめたそうだ。

「オ、オマエたち! いったい何者だ! 塔中に線路を引いて!!」

 灯台の真ん中に立つ一匹の影、おそらくコイツがこの灯台のボスだろう。

「オマエがボスか!」

「いかにも。星海の灯台を守護するキングガーゴイルだ」

 キングガーゴイルは空を飛び、灯台の上で立つ。

「人間が星を操る魔法装置ができたと聞いて、魔王様は俺を派遣させ、この塔を支配した。人間が星を使って俺たち魔物を駆逐するなんて黙っていられないからな!」

「「「あっ」」」

「な、なんだ?」

「「「その発想なかった」」」

 そりゃ、魔王は星海の灯台を急いで支配するわな。

「じゃあ! オマエ達何のためにここへ来たんだ」

「星の石を手にするために」

「ふざけるな! 星の石はなんてそこらへんに落ちてるじゃないか! 塔のてっぺんまで来るバカがいるか!!」

 トバはため息をついて肩を落とした。

「それとも何か! 村の連中に魔物討伐にでも任されたのか!」

 トバは体操座りしてイジイジしだした。

「まあいい! 俺がここにいる限り、オマエ達はこの灯台に触れさせはしない。星を落とす兵器なんて恐ろしいからな。俺たち魔物でもこんなことできないぞ」

 あの魔物、常識的だ。もしかすると、この世界のヒトと魔物は手を取りあって生きていくことができるかもしれない。

「キングガーゴイルさん! わたし達は星の石が欲しいだけであなた達の世界に興味ありません!」

「ふん。どうだか」

「一回でいいですから灯台の力を使わせてください」

「それはできないな」

 キングガーゴイルは頬に指をトントンと叩くと、ニヤッと笑顔を浮かべた。

「でもな――、使わせてやってもいいかもしれないな」

 キングガーゴイルは大きな翼を広げ、フィーラの元へと降りてくる。

「引き換えは命な」

 キングガーゴイルの腕が伸び、その爪が少女の心臓を狙う。

「させない!」

 トビは手にした剣でキングガーゴイルの爪を叩き、その攻撃を阻止する。

「鈍ったな。俺も」

「オレが強いだけだ」

 トバは後ろに下がり、キングガーゴイルは灯台へと戻る。

「ドォリャ!」

 トバは飛びあがり、キングガーゴイルの下へと飛び込む。

「見えてるぞ、心臓が!」

 キングガーゴイルの爪がトバの胸へと狙う。

「見せたな! 爪を!」

 トバは突き出した爪を叩き、弾き飛ばす。

「くぅ!」

 キングガーゴイルは叩き落された爪を守る。一方でトバはじわりと近づく。

「戦い慣れしてるな」

「どうも」

 二人はにらみ、そして動いた。動いたのはトバだった。

 トバはもう一方の爪を狙い、そこへと剣を振った。

「トマレ」

 トバはキングガーゴイルの言葉通り停止し、剣を振り落とす体制のまま、横たわる。

「随分とコケにしてくれたな」

 キングガーゴイルは爪を伸ばし、ギラッと光らせた。

「穴を開けてやる」

 キングガーゴイルがトバのそばへと近づこうとする。そのとき、フィーラの声が塔に響く。

「うなれ! 伝説のいかづち!」

「何?」

 キングガーゴイルはフィーラの方へと視線を寄越す。

「ギガントトール!」

 魔法の杖から生まれたいかづちの巨人がハンマーを振りあげ、キングガーゴイルの頭上へと振り落とす。

 キングガーゴイルは素早く後ろに下がった。

「トマレ」

 いかづちの槌はキングガーゴイルの頭上で停止した。

「星の力を操る世界で雷とは。この世界にない魔法だな、これは」

「他の世界から来たことだとわかりましたか?」

「認めてやるよ」

 キングガーゴイルが右手を振る。

「しかし、こっちの魔法もなかなかのものだよ」

 すると、キングガーゴイルの腕の中へとフィーラがいた。

「わたしはあそこにいたのに?」

「わかるか? わかるか? わからないだろう? ハハハ!」

「どうせ、その灯台の力なんだろう」

 ボクは嫌味たらしく言った。

「クッ!」

 どうやら図星のようだ。

「この灯台には引き寄せと引き止めの力がある。俺はその力を使って、このコを呼んだ」

 けっこうやっかいな魔法だな。

「さて、人間よ、このコの命が欲しければ、武器を捨てるんだ」

「ないぞ、そんなの」

「武器がない?」

「刃渡り6センチ以上の刃物を持ったら刑罰だから」

「ハハハハハハ!」

 キングガーゴイルはオレの世界の常識に笑った。

「非常識だ! そんなの! 人間よ! 今までどうやって生きてきた!」

「言うまでもないだろう。そんなのが必要のない世界で生きているんだよ」

「そんな世界など存在しない! そんな平和と呼べる世界が――」

「オマエ達が手にしている星を落とす兵器みたいのがみんな持っているから意味がないんだよ」

「な!」

 キングガーゴイルが止まった。オレの世界の常識にやられた。

「すごいだろう、キング」

 キングガーゴイルは振り向くと、魔法で止まっていたはずのトバが剣を振り下ろしていた。

。それがあいつのなんだ」

 キングガーゴイルは胸を貫かれた。そしてトバはキングガーゴイルの右腕にいたフィーラを手にし、地面に着地する。

「それと、魔法は使う前から試しておけ。2つ同時には使えないって」

 トバはキングガーゴイルを背にし、剣を鞘に戻した。

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