クエストは“星の石の真偽性”


 トバは苦虫をかんだカオで男を来るのを嫌がる。しかし、トバの願いは叶わず、男はこのテーブルへと来た。

「はじめまして、異国人。ワタシの名はケレード。この街の商会長をしております」

 ケレードは瞬間的にボクの髪、服装、足下と目を動かす。値踏みに入っている。イヤなヤツだ。

「先ほど、とても大きな乗り物がやってきて、その乗り物から異国人が降りてきたと連絡が来ましたが?」

「それが何か?」

「困りますね。この街にいる市民の安全を確保しなければならないのに」

「これから気をつけるよ」

「気をつけてくれるのでしたら幸いです。市民にはそのように伝えます」

 この男、ホント、鼻に触る奴だ。

「あなたのお名前は」

「カズヤ」

「では、カズヤさん。ワタシはあなたと一つ、ビジネスがしたいのですが」

「ビジネス?」

「そう。あの大きな乗り物をワタシに譲ってくれま――」

「いやだ」

「ただとは言いませんよ。さあ、オマエたち!」

「へい」

 ケレードの後ろにいた護衛の男たちがズタ袋5つをテーブルの上に置く。

「うわぁ!」

 テーブルにいたトバはズタ袋の中身を見て驚く。それもそのはず、ズタ袋の中にあったのは袋いっぱいの金貨であった。

「この中身は1枚100ゴールドの金貨です。1袋あたり1000枚ですから合計50万ゴールド! これだけあれば、好きなモノが買いたい放題」

「あの乗り物でコツコツビジネスやった方が儲かると思うが」

「それもそうですね。はい」

 テーブルの上に置かれたズタ袋はすぐに回収された。

「もう少しネバらないのか」

「ワタシはそういう暑苦しいのは嫌いです」

 この男をどこまで信じれば良いものか。仲良くはできなそうだ。

「それと、そこにいる。トバ君」

 トバは「ちっ」と小さく舌打ちした。

「頼んでいたモノは用意できたかな」

 ケレードがトバの前に立つと、トバはうつむいた。

「下向いていたら話ができないよ、トバ君。もしかして見つからなかったとでも言うのかな?」

 ケレードは弱者をいたぶるようにネチネチと話しかける。

「『星の石』を探すのが君たちのクエストだったよね。お金のない君たちに前金として300ゴールドも渡したんだ。見つからなかったなんて言うつもりはないね」

 トバは何度も口元を動かし後、ゆっくりと口を開いた。

「おとぎ話に出てくる『星の石』はウソ情報でした。色んな街で話を聞いてきましたが、どれも矛盾だらけでした」

「嘘情報だったか。それは残念だ」

 ケレードはカオを左右に振る中、小さく笑っていた。

「それではトバ君。嘘情報のを出してくれないか?」

「証拠?」

「そうだ。ワタシにもウソのを見せてくれよ」

 思いっきり鈍器に殴られた表情をするトバ。初耳だったのだろう。

「クエストの条件は嘘情報でもその真偽がわかればいいって」

「ワタシその真偽を確認する。だから嘘情報でもその証拠がいるのだよ」

「ウソだろう……」

「キミもこの世界が求めるルールはわかっているはずだ。この世界が求めるのは情報の“真偽性”。真実なら真実、ウソならウソ。実に簡単なことではないか」

「ウソの証明は矛盾だと思いますが」

「持ってくればいいではないか。それを」

「これ以上、ボクを困らせないでくださいよ。他の依頼を受けさせてください」

「ここでは同時に依頼を2つ以上受けるのはナシだ。もし他の依頼を受けるのなら別の街へ行くことだな」

「おとぎ話に出てくるモノに必死なんですね」

「ロマンチストは嫌いかね」

「嫌いです。特にフィーラにつくウソなら」

「ほう」

 ケレードは眉を上げ、とてもイヤらしいカオをする。

「わかっているんだ。この街にフィーラがいたらあんたが損するかを」

「まるでワタシがフィーラ君を追い出したいと言わんばかりだな」

「実際、そうだろう。ケレードさん」

「ワタシは嫌いではないよ、フィーラ君は。それに、この依頼はフィーラ君が大好きな伝説に出てくる『星の石』なのだから、ちょうどいいではないか」

「これ以上、見たくないんだ。おとぎ話がおとぎ話なんだ、と、がっかりする女のコは」

「キミもなかなかロマンだね。こっちが恥ずかしくなるくらい」

「ケレード!」

「考えてみないか? 少年。フィーラ君と冒険できる理由がある。これは嬉しいことだろう? あのコは伝説級の魔法使いで戦力にもなるし、しかもかわいい。こんないい物件、他にはいない。もしお金に困っているのならワタシが少し出そうかね」

「あんた、フィーラが嫌いなんだな」

「ジャマなだけだよ」

 二人のにらみ合いは続く。

 そんな空気を破るように、ボクは口を開けた。

「ケレードさん、星の石があればいいんですね」

「ええ、そう簡単には見つけられませんがね」

「――星の石ってキレイだったな」

 ケレードはポカンとした。しかし、ボクが異国のヒトだと言うことを思い出したのか、小さく呟いた。

「星の石は何処にもない」

「なぜ、“ない”を知っている?」

 ケレードは「はっ」と言わんばかりに口を抑えた。

 ――知っていたか。

 街の権力者なら星の石の真偽なんて知っていてもおかしくない。だから、別にいい。星の石があることないかは、さほど重要ではない。

 重要なのはこの男が星の石の何かを利用してトバやフィーラを困らせている。ボクはそれが許せなかった。

「冒険者失格だったな、トバ。星の石はあるんだ」

「ハハハ、そうかい」

 この場を打開するウソだと思われているな。

「何、笑っているんだ。行くぞ、トバ」

「え?」

 トバの目は丸くなる。

「フィーラもそこで休んでるな」

「は、はい!」

 カウンター席にいたフィーラは立ち上がり、ボクの元へ来る。

「フィーラ様!?」

 フィーラの姿に、ケレードは両手を大きく広げて驚く。

「ケレード。星の石はある。伝説もあるから!」

 フィーラはケレードに怒鳴ると、ボク達のそばへとやってくる。

「じゃあ、行くか」

 ボクは異世界18きっぷを取り出し、8を描き、1の線引く。すると、店の表から汽笛が聞こえ、酒場が揺れた。

「カズヤさん! 何を!」

 ケレードの大声に対して、律儀に応えた。

「星の石を持ってくるために列車を走らせる」

「何の得にもなりませんよ! こいつらを助けても!」

「旅に損得勘定なんてしてられるか」

 都市国家のど真ん中に異世界列車がやってきた。ボクらはそれに乗り込む。

「ワタシはまだ彼らを自由にしていいとは言ってません!」

 ボクはケレードのカオに当たるようにポケットの中にあったモノを投げつける。隣りにいた護衛がそれを掴んだ。

「見せろ」

 護衛の手が開く。円いモノがあった。

「なんだこれは」

「1円だ」

「いちえん?」

「今日中に戻ってくるが一応担保だ。大事にしとけ」

 そういって、ボクはケレードを背に、異世界列車に乗り込んだ。

「こんなもので納得できますか!」

「ケレード様! これは今朝、街のヒトがロゼッタの泉で取り合いになっていたお金です!」

 異世界列車の扉が閉まり、ケレード達の会話が聞こえなくなった。

 ボクが席に座ると、異世界列車は動き出し、ロゼッタの泉へと向かって走り出す。

「泉が! 泉が!!」

「カズヤさん!! これ! 止めてください!」

「よく見ろ」

 ロゼッタの泉の上で空間が歪む。空間の向こう側には雲が見えた。

「ここから異世界へ通じるんだ」

 異世界列車は異空の群雲へと入る。星降る世界、『スターライト』へ向かって旅立った。

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