第2話 実は彼女は…

 授業中、俺は授業が頭に入ってこなかった。昨日の事があり、俺は今日のお昼を心待ちにしていた。

 早く昼にならないかと、ソワソワしながら授業を受け、昼休みを待った。


「それじゃあ、今日はここまで」


 昼休み前最後の授業が終わり、俺は弁当を持って屋上に行こうとする。と、そこで康が俺を呼び止めた。


「おい、弁当持ってどこ行くんだよ?」


「え? あぁ、ちょっと屋上にな! 神様のお告げでな!」


「お告げ? あぁ、昨日神社に行ったんだったな……何かあったのか?」


 俺は康に昨日の神社での出来事を話す。すると、康は何やら可哀そうな人を見るよう目で俺に優しくこう言ってきた。


「誠二。お前、報われなさ過ぎてそんな幻聴を……」


「は? 何言ってんだよ? 悪いけど俺は急ぐから、またな」


「あぁ、急ごう……保健室に…」


「へ?」


「おーい、手伝ってくれ! 誠二が重症だ!」


 康がクラスの連中に向かって声を発すると、皆何事かと思い俺たちの方を向く。


「誠二が重症? 一体どうしたんだ?」


「あぁ、実は……」


 よって来たクラスの男子数名に何やら事情を説明しだす康。俺は早く屋上に行きたかったのだが、康が腕を掴んで話してくれない。


「なに! それは重症だな! みんなで運んでやろ!」


「そうだな! こういう時は助け合いだもんな!」


「誠二…可哀そうに……」


 こいつらは何を言っているんだろうか? 最後の奴に至っては涙を流している。俺はいい加減屋上に行こうと、康の手を振りほどこうとするが……


「おい! 何するんだ! やめろ! おろせ!!」


 なぜか、友人4人に体を持ち上げられ、俺はそのままどこかへ運ばれていく。


「大丈夫だ、お前の人生はこれからだ!」


「保険の先生は若くはないけど、優しく話は聞いてくれるぜ!」


「早く良くなれよ!」


 なんだかいつもより優しい友人たち。どうやら保健室に運ばれているらしい。


「いや! なんでだよぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」


 もちろん、俺は昼休みに屋上には行けなかった。代わりに保健室の先生(30代後半女性)が優しく俺の話を聞いた後、康達と同じように優しい視線を向けながら、近くの精神科に電話を始めた。


「はぁ~、全くなんだってんだよ……」


 結局神様のお告げは実行できず、屋上にはいけないまま、もう既に放課後。がっくりと肩を落としながら、俺はせっかくくれたチャンスを棒に振ってしまったことを神様に謝るために、昨日と同じ神社に向かっていた。


「でも……本当に西島さんは屋上に来たんだろうか?」


 よくよく考えて見ればおかしい話だ、昨日知り合った自称神様の言葉を信じて屋上に向かおうとしたなんて、第三者が聞いたら精神を病んでいると思われても仕方がない。


「まぁ、もしかしたらあの時は疲れてたし、幻聴を聞いたのかもな……一応今日も一回だけ行ってみるか…」


 俺は神社までの道を急ぐ。冷静になって考えて見れば、あれが本当に神様だったのかも怪しい。それに神は神でも疫病神だったのかもしれない。

 そんな事を考えている間に、神社に到着した。俺は早速神様を呼んでみた。


「神様ぁ!! いますか! 神様ぁ!!」


 結構大きめの声で叫ぶが、返答はない。やっぱり昨日の神様は悪戯か……。


「わ……。わしを呼ぶのはお主か!」


「おぉ! また出てきた」


 悪戯かと思い、引き返そうとした矢先。神様の声が神社の中から聞こえた。俺はこの神様が本物なのか確かめるために、神様を試すことにした。


「神様! 今日俺屋上行ったぞ! でも西島さん来なかったぞ!」


 そう、嘘をついてみた。これでもし本物なのなら、俺がいけなかった事を知っているはず、逆に偽物ならそのまま話を進めるはずだ。さてどっちだぁ……。


「ほぅ…わた……わしに嘘をつくのか!」


「……!!!!!」


 バレた……まさか、本物なのか!? そう思っている間にも神様の言葉は続いていた。


「彼女は屋上に来ていたぞ! なんで……なぜいかなかったのじゃ!」


 なぜか良くわからないが、まるで待っていた本人かというようにご立腹な自称神様。俺は、何があったかを自称神様に説明する。


「……と、まぁそんな感じで保健室にいました」


「な…なるほど……それは仕方がない……」


 俺は昼休みに何があったかを自称神様に話す。今冷静に考えてみると、こんな話を聞いて頭がおかしいと思わない人はいないであろう。だが事実だからしょうがない! とは思うが、これからはこの事は誰にも言わないでおこう…


「分かってくれましたか! 神様の御厚意をむげにしてすんませんでした!」


「まぁ、良い。まだチャンスが無くなったわけでは無い」


「え! ほ、本当ですか!」


 思ってもみなかった、うれしい知らせに、俺は心が高鳴るのを感じた。しかし、この神様を本当に信じて良いものなのだろうか? だが、自分でなんとか出来ない以上、この自称神様を頼ってみた方が、いくらか進展があるかもしれない。


「教えてください神様!!」


「よ……よかろう…とりあえず明日もお昼に屋上に行ってみなさい」


「え? 明日もですか?」


「そうじゃ、そうすれば上手く行く」


「う~ん、でも本当に来るのかなぁ……」


 今日も来ていたかわからないのに、明日も来るのだろうか? 実際に今日来ていたのか確かめる方法も無いが、この自称神に対してまだ、俺は半信半疑だった。


「いきま……大丈夫じゃ、必ず来る! 断言しよう」


「うーん。まぁ、行くだけなら別に俺に実害はないしな……行くだけならまぁ良いか」


「良いか、明日は必ず行くのじゃぞ」


「あぁ、わかった。んじゃ、俺はこの辺で……」


 俺は神社を後にする。帰り道、俺はふと考える。なぜ西島さんがお昼に屋上に居るのか、俺の記憶では、彼女はいつも友人と教室で昼食をとっていたはず、今日は屋上に行くことに意識が集中してしまい、気が付かなかったが、明日はお昼の彼女の行動を見ていれば、屋上に行くか否かわかるのではないだろうか? そうだ、それが良い! 俺は明日の昼の事を考えながら帰宅した。





「はぁ~、そんな理由だったんだ…張り切って損した気分だよ~」


 私は先ほどまでいた思い人の事を考えながら、神社の階段に座ってため息をついていた。昨日の夕方に、私が彼に今日のお昼、屋上に来るように差し向けたのだが、結果彼は来ずに昼休みは終わってしまった。

 もしかしたら、神様なんてバカみたいな話を信じるほど、彼も頭は悪くないのかと思ったのだが、しっかり神様を信じている様子で、今日もこの神社に来ていた。


「まぁ、そりゃあ第三者にこんな話したら、頭おかしいと思われても仕方ないけど……」


 そういえば、なんだか今日のお昼はクラスの男子たちが騒がしいと思ったが、まさか新山君を搬送していたなんて…。

 まぁ、でも明日も屋上に行くように言ったし、明日こそは新山君とお近づきに! そして流れで……


「えへへ……えへ…」


 一人、また妄想に耽りながら、私は自分でも気持ちが悪いと思うほどの笑みを浮かべていた。


「それにしても、こんな事を神様にお願いしなくても、新山君から話しかけてくれれば万事解決なのに、なんで直接来てくれないんだろう?」


 考えてみれば、なぜ彼は私に直接声をかけて仲良くなろうとせずに、こんな古い神社に来て神頼みをしているのだろうか?


「もしかして、私の事好きすぎて恐れ多いとか? なんて、何言ってんだろ私!」


 そんな自分に都合のいい事ばかり考えてしまう私、本当にそうだったら、私はうれしすぎて、彼と二人きりなんかになったら、どうにかなってしまう。


「まぁ、明日なんとか友達くらいになれれば上出来よね!」


 そう決意し、私は神社を後にする。明日の昼を楽しみにしながら、家に帰った。





 次の日、俺は今日こそはという思いで登校し、午前の授業を受けていた。教室に入った瞬間、昨日に引き続き友人たちが、何やら優しかったが、そんな事はどうでもいい。肝心なのは今日の昼だ。彼女の行動を観察し、屋上に行くかどうかを確かめ、俺は行動に出る! 一人気合を入れて、午前の授業を乗り切り、そしてついにお昼だ。


「良し!」


 改めて気合を入れ、俺は西島さんのストーキング……もとい、観察を開始した。どうやら彼女は、授業終了と同時に教室を出ていくようだ。俺は後に続いて、彼女にみつからないように追いかける。


「本当に屋上に行くのか?」


 彼女はどんどんと階段を上がり、屋上の方に向かっていく。やっぱり神様の言うことは本当だったのか! などと感激をしながら、俺は後をついていく。そしてついに屋上に到着した。


「マジかよ……」


 本当に神様の言う通りになった。驚きと興奮で、俺はテンションが上がっていた。これで彼女と仲良くなれるかもしれない、期待を胸に俺は屋上のドアを開けようとする。

 しかし、何やら声が聞こえてきた。どうやら西島さんが屋上で何か話しているらしい、まさか他に人が居るのか? そう思い、俺はドアを開けるのをやめ、聞き耳を立てた。


『新山君、まだいないのかな?』


「!!」


 俺は驚き、その場から一歩後ろに下がった。どういう事だ? なぜ彼女が俺の来ることを知っている! もしかして、つけているのがバレたのか!


『はぁ~、今日も来なかったらへこむな~』


 今日も! って事は昨日も屋上にいて、俺が来るのを待っていたのか!! なんでだ、もしかしたら……

 俺はここで確信してしまった。俺の考えている事が本当だとすれば、すべての説明がついてしまう。


「まさか……神様って……」


 そう思った瞬間、自分の顔が熱くなるのを感じた。

 ぬぁぁぁぁぁ!! なんてことだ、俺は気づかない間に、好きな人に愛をささやくどころか、愛を爆音で騒音のようにまき散らすかのごとく、語りまくっていたのだ! そんな死ぬほど恥ずかしい事を俺は! 俺はぁぁぁぁぁぁ!!!

 気がつくと、俺は階段の踊り場で頭を抱えてゴロゴロ転がっていた。だが、あっちは俺が神様の正体に気が付いたとは思っていないはず!! ならば、まだ手はある! 俺は改めて気合を入れなおし、屋上の扉をつかむ。


『早く来ないかな~。色々話したいし、もっと仲良くなりたいし、それに早く恋人に……なんて! 何考えてんだろあたし!』


 若干気が付いていたが、やはり俺たちは相思相愛の様だ。そうなれば恐れる事はない! いざ!

 俺はドアノブをひねって中に入ろうとした……しかし……


「新山君と恋人同士かぁ……デートしたり、一緒にお部屋で遊んだり……それでベットで…えへ……えへへ。私何かんえてんだろう……新山君にそんな事……フフ……ウフフ……でも他の女の子と仲良くしてたら……一緒に死んじゃえばいいか♪」


 よくねぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!! なんだ! おかしいぞ、この子ほんとに西島さん? 怖いんだけど…メッチャ怖いんだけど! 最初の方の流れは良かったのに、最後の殺しちゃえばいいか♪ って何ぃぃぃぃ!

 俺は気が付けば、またドアノブから手を放していた。普通に考えれば、今まで思いを寄せていた相手も自分と同じ気持ちで、喜ぶべきところなのだが、この場合は愛が重たすぎて、純粋に喜べない自分がいた。

 だが、俺の子の5年間の気持ちはこんな事で砕かれる者だろうか? 答えは否! 俺はまだ彼女の事を知らない、これから知れば良いじゃないか! これから二人で上手く付き合って行けばいいじゃないか!

 俺は意を決して屋上の扉を開けた。


 そうだ、ここから始まるんだ。俺と彼女の恋が……


「に……西島さん!」


「あ、新山……君」


 見つめあう俺と西島さん。いや、俺と自称神様。お互いに好き同士とわかってしまった今、俺は思う。恋愛成就の神様は本当に居たのかもしれないと……



おしまい

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

実は神様は…… Joker @gnt0014

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ