実は神様は……
Joker
第1話 縁結びの神様
夏休み前の夕方。俺、新山誠二(ニイヤマセイジ)は神社までの長い階段を上り、やっと神社の目の前に来ていた。
夕方だというのに、気温が下がる様子が無く、やっとたどりついた目的地で膝をついて汗をぬぐった。
「あっち~、やっと着いた……」
俺がなぜこんななんの変哲もない神社に、汗だくになりながら足を運んだかというと、この神社の神様にあるお願いをしに来たからだ。お賽銭も奮発して通常の百倍の御利益を期待して500円用意した。
「良し、じゃあ早速!」
なけなしの500円玉を握りしめ、俺は賽銭箱の前まで歩みより、ためらうことなく500円球を投げ入れる。そして手を合わせて強く願う。
え? どんな願いかって。それは……
「神様ぁぁぁぁ! どうか! どうか! 西島さんに俺の思いが届きますようにぃぃぃ!!」
ご覧のとおり、恋愛祈願です。
話は今日の朝のホームルーム前にまで戻る。いつも通り、俺は学校に登校した。自分の教室に入ると、いつも通り友人たちに挨拶を交わして自分の席に着く、そして俺が席について一番最初にやることがある。
「今日も可愛いなぁ~」
クラスメイトの西島由梨花(ニシジマユリカ)の姿を見つけて、俺は顔をこれでもかと緩ませる。第三者から見たら、俺は確実に変態であろう。
ここまでの様子からわかるように、俺は彼女に密かに好意を抱いている。少し小柄で、整った幼さの残る顔立ち。綺麗というよりは可愛いという言葉が非常によく似合う少女だ。
「相変わらずお前キモイな……」
「うっせぇな! はぁ……どうにかして仲良くなれないかな……」
友人の田中康(タナカヤスシ)が俺の顔を見ながら言ってくる。言い返したのは良いのだが、自分でもそんな事はわかっている。
「仲良くって…小学校から一緒の癖に、一度も話したこともない奴が何言ってんだよ。今更過ぎるだろ?」
「し…仕方ないだろ! タイミングを見計らってたら、高校生になっちまったんだから……」
「片思いして何年目だよ……」
「えっと……今年で五年か?」
「どんだけ小心者なんだよ。その間に西島と話すきっかけとなかったのかよ……」
「仕方ないだろ、クラスはずっと別だったし、委員会も別……今年やっと同じクラスになって接点が出来たんだから」
「じゃあ、とっと何か話てこいよ。ずっと同じ学校だったけど、同じクラスになるのは初めてだね? とか言って切り出せば問題ないだろ?」
「いや、駄目だ」
「なんでだよ」
そこで俺は今まで西島さんに向けていた目を康に向けなおし、真面目な顔で言ってやった。
「可愛すぎてまともに話せない」
「………」
「イタッ! 何するんだよ!」
無言で康に殴られてしまった。まったく、あんな可愛い子の前で俺みたいな一般人が言葉を発せられるわけがないだろ……。
「いや、ちょっとムカついたから」
「何その犯罪者みたいな理由!!」
「なんでも良いけど、その調子だと一生仲良くなんてなれねーぞ?」
「そんなの分かってるよ……でも、どうしたら良いかわからないんだよ……」
再度、西島さんの方を見る。西島さんは今、二人の友達と話をして笑っている。笑った顔も可愛いなぁ~。なんて考えていると、隣に立っている康が大きなため息をついた。
「お前……本当に何も出来ないまま終わっちまうぞ、その恋……」
「ハハハ……僕もそう思う……」
康の言う通り、このままでは俺の5年間の恋が無駄になってしまう。
「どうすればいいんだ……」
「そんな、お前に気休め程度の事だが、良いことを教えてやろう」
「なんだよ、良い事って」
康は呆れ顔で顔に手を当てながら何かを言おうとしている。
「学校の裏手にある小さい神社知ってるか?」
「あぁ、あの古い神社だろ? 今はお参りする人も珍しいくらいに人が来てないみたいだけど…」
「あぁ、その神社なんだが、元々は縁結びの神様らしい。個人的に神様は信じてないが、まぁ気休め程度にお参りしてきてみろよ」
「そうなのか? 縁結びかぁ~。行ってみる価値はあるかな? もしかしたら本当に神様が俺の願いを聞いてくれるかもしれないし!」
そんな期待を胸に、俺は放課後に早速その神社に行くことを決意する。しかし、どうお願いしたものだろうか? 友達になりたい? いや縁結びの神様にお願いするんだからもっと積極的でいい気がする。恋人になりたい? それはそれで恐れ多いし、どうしたものか……。
などと考えて神社まできて現在に至るのだ。
「間を取って思いが通じるように願ったが、これで良かっただろうか……」
俺は顔を上げて神社を見る。かなり老朽化が進んでいて至るところがボロボロだ。長い間この地で縁結びの仕事をやってきたと考えると、神様ももう疲れて俺の頼みも聞いてくれないかもしれない。
「はぁ~やっぱ無駄足だったかな~」
賽銭500円は奮発しすぎたか? などと考えつつ俺は帰ろうと神社に背を向けて元来た道を引き返す。
ガタン!
「ん?」
後ろの方から物音が聞こえて、俺は神社の方に向き直った。誰かいるのだろうか? いたとすれば、俺の恥ずかしい願いを聞いていた可能性がある。もし同じ学校の生徒だったら、俺は恥ずかしくてしんでしまう! 俺は人が居ないかを確認するために神社の方に戻っていった。
「だ、誰かいるのか!」
とりあえず聞いてみた。もしかしたら野良猫かもしれない。
「にゃ、ニャ~」
猫だった。
「なーんだ猫か……ってんなわけねーだろ!! 鳴き声をためらう猫がどこの世界に居るんだよ! 誰だ! 隠れてないで出てこい!」
声がした神社の中に向かって声を出す俺。しかし声の主は出てくる気配がない。
「来ないならこっちから行くぞ!」
俺は神社の中に向かって足を進める。
「く…くるではない!」
神社の中から声が聞こえ、俺は足を止めた。
「やっぱりいたか! 盗み聞きなんて野暮な事しやがって!」
「ぬ…盗み聞き? はてなんのことじゃ?」
「とぼけんな! 俺の願いをそこでずっと聞いてたんだろ!」
俺は声のする神社の戸に向かって声を荒げるが、そういえば俺が勝手に大声を出していた気もする。まぁ、この際気にしないようにしよう。
「そ、そりゃあ…この神社の神じゃからの…わた…わしは」
「え……」
なんという事であろう、俺は今神様と話をしているらしい。が、そんなのが嘘だという事くらい、俺にもわかる。
「なに、しょうもない嘘ついてやがんだ!」
俺はどうしようもない事を言う声の主にイライラし、神社の戸を開けて声の主の正体を確認しようとする。しかし、神社の中はもぬけの殻で、誰もいない。
「え……」
「だから言ったであろう……私…じゃない。わしは神じゃと」
誰もいないはずなのに、声が響いてくる。もしかして本物? などと俺は思い始めていた。
「ま、まじか……」
あまりの事に俺は衝撃を受ける。俺はしばらくその場で固まってしまった。
「と、ところでお主。先ほどの願い、詳しくもうしてみよ」
自称神様が、俺に向けて言葉を発してきたところで、俺は我に返った。まだ半信半疑だが、とりあえず俺は自称神様に恋愛相談をすることにした。
「か、神様、実は俺好きな子がいるんだ。同じクラスの西島って子なんだけど、もう5年間も俺は片思いをしているんだ。何とか彼女に俺の思いを届けてくれないか?」
「ほ…ほぉ…五年間も……。してその子のどこが好きなのじゃ?」
「へ?」
なぜそんな事を聞くのか最初は理解できなかったが、これはおそらく俺の彼女に対する真剣さを確認しようとしているのだろう、流石は自称神様だ。そうなれば、俺の熱い彼女への思いを神様に伝えて、彼女への真剣な思いをアピールしよう。
「それは、ありすぎて困るなぁ…。まずは性格だ! 誰にでも優しくてどんな奴にも分け隔てなく優しく出来るあの性格! 人間顔じゃないっていうけど、西島は顔も可愛くてそんな性格なんだから完璧なんだ! あ、でもちょっとドジで何もないとこで転んだり、授業中に若い女の先生をお母さんって呼んじゃうようなところも、ギャップがあっていいよな~。それから……」
「も! もうよい!!」
「え? まだ全体の二割にもみたないんだが……てか、言い足りない」
「いいと申しておる! そ、それで……お主はその事どうなりたいのじゃ?」
「え? うーん……」
どうなりたいかと聞かれると困ってしまう。正直、片思いをしていただけで、俺は彼女と一度も話したことがない、なのでいきなり付き合えたとしてもおそらく長続きしないであろう。だとすれば……
「友達になりたいな…」
「はいぃぃぃぃぃ????」
大声を出す神様。一体どうしたのであろうか。
「さっきまであんなに、色々言ってたくせに友達ぃ? それでいいの?」
なんだか驚き過ぎて、キャラを忘れてしまっている自称神様。でも、確かにそうかもしれない。だが、物事には順序がある、俺は何もかもをすっとばして彼女といきなり付き合いたいなんてことは言わない! 何しろそれ位大切な存在だからだ!
「あぁ! 俺は恥ずかしながらまだ彼女と話したこともない、だからまずは友達になってもっと西島を知りたいんだ!」
「い…良いのか? その……付き合いたいんじゃろ? その子と…」
「付き合いたいけど、やっぱり順番って大事だと思うからさ、それに本当に好きなら神様にも頼まないで、自分でこの気持ちを伝えないと意味がないから……。だから、きっかけだけ神様に作って欲しかったんだけど……」
「そ…そうか、よかろう明日、学校に行ったときにお昼に一人で屋上に行ってみると良い。彼女と話すきっかけが生まれるぞ」
「ほ…本当か神様!」
「ほ…本当じゃ、明日の昼に弁当を持って行ってみるのじゃぞ!」
「わ、わかったよ神様! 上手く行ったら、明日お礼に来るよ! じゃあ、ありがとう!」
俺はうれしくて、神様にお礼を言って駆け足で自宅までの道を帰っていった。
*
「帰ったかな?」
私、西島由梨花は神社の裏手から顔を真っ赤にしながら誰もいない事を確認し、表の方に出ていく。
「はぁ……まだ心臓がドキドキしてるよ~」
私がなぜこんなところで顔を真っ赤にしていたかというと、先ほどまでいた新山誠二のせいである。
私は演劇部に属しており、一人で発声練習をするのに、この人気の少ない神社を利用していた。元々、この神社は私の祖父が手入れなどをしていて、小さい頃からよくこの神社で遊んでいた。
今日も発声練習をしていたのだが、その途中でお参りに来た人がおり、私は発声練習を止めて神社の中に隠れていたのだ。しかし……
「はぅ~、なんで私あんなこと言っちゃったの~。しかも明日の昼って……絶対新山君の顔見れないよ~」
彼の熱の入った私への思いを聞いてしまった私は、元々好きだった彼を更に好きになってしまっていた。
「でも…これはチャンス! 何とかこの流れで新山君が私に告白してくれれば!」
なんて、素敵な妄想劇を脳内で繰り広げる私。
新山君は5年間私を好きだったと言ったが、私はもっと長い、7年も私は片思いをしている。きっかけは小学生のころ、私は男子にいじめらていて泣いていた。そんなときに現れたのが新山君だった。正義感が強くて優しい彼に私はどんどん引かれた。
「はぁ~あ、明日上手く話せるかなぁ~」
両想いと知った今、私は幸せの絶頂に居た。今なら空だって飛べるんじゃないかってくらいに体が軽くて多少の事なら笑って許せそうだ。
「まさか、私の事をあんなに思ってくれてたなんて……」
彼の誠実な思いや私を大切にしたいという気持ちをストレートに聞いた私の彼への好感度は、既にマックス以上になっていた。
「さっさと告白してくれればいいのに~、私絶対嫌いになんかならないのに~」
大切に思っていてくれる半面、私は順番を大事にしたいという彼の優しさが少しまどろっこしかった。今彼に告白されたら私は確実にOKだし、なんだったらその先も……。
「って、何考えてるのよ~私ったら~」
自分でもわかるほど、私は舞い上がり壊れている。私はとりあえず暗くなる前に帰ろうと、荷物を持って、帰路についた。
「明日が楽しみだなぁ……」
これから始まる、彼との新しい関係に胸を躍らせながら私は自宅に帰った。
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