第21話

冬休みは夏休みとは違って短い。

もうあっという間に明日からは学校だ。


冬休み、年末まではバイト三昧だった。

年越しは家族と過ごして、年始は上2人の姉が家族と帰省してきてバタバタだ。


休みという感じがしない冬休みも、もう終わりだ。


明日からはまた学校とバイトの生活だ。

でもその中で唯一の救いは安藤先生に会えることだった。

安藤先生に傘を返すことだった。



・・・・・次の日

重たい瞼を開けて憂鬱な朝を乗り越える。

今日は安藤先生に傘を返そうと思っていた。

自転車の横に傘をつけて持っていこうと思っていた。

でもそこで

「自転車の横につけていて摩擦で傘が傷ついたらどうしよう。」

その不安が頭をよぎる。

父に車で乗せて行ってもらうのが1番いいのだが私が寝坊したせいで、それでは通勤ラッシュの中、間に合わない。また別の日に返そうか。

しかし今日は金曜日。今日返さなければ休み明けの月曜日になってしまう。

どうしよう。

でも朝の天気予報では土日は「晴れ時々曇り」だった。

これなら大丈夫だ。ちゃんと説明して月曜日に返そう。

そう考えて学校へ向かう。



初日、集会が終わっていつものように駐輪場へと向かう。

いつもなら会えるのに何故か安藤先生には会えなかった。

傘を返すことも、理由も説明できないまま、土日を迎えることになった。



天気予報とはあまり信頼ならないもので、日曜日は土砂降りの雨だった。

こうなってしまうと罪悪感に襲われる。

「遅刻したかもしれないけど金曜日に返すべきだった。」

「もう1本持っているから」と言われて借りたものの早めに返すべきだった。

後悔と罪悪感に襲われながら日曜日が過ぎ、もう月曜日だ。


今朝は父に送って行ってもらえるように頼んでおいた。


安藤先生に借りた傘を持ち、学校へ向かう。

朝一で安藤先生の授業。

でも、おもしろいもので授業の時はお互い傘について触れない。

私からも、安藤先生からも、傘の話は一切しない。

この時、お互いにあの唯一2人きりになれる時間を楽しみにしていた。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る