第三話 説明会


 周りを見てみると、30人は座れるだろう席があって、そこにはチラホラと人が座っているのが見える。


 黒人の親子が3組にアジア系の親子が4組、奥の方には白人系の家族が7組ほど座っている。自分たち以外にも人がいた事に清美と太郎は少し安心をするが、それ以上に不安も大きくなった。


 小さく聞こえるネイティブな英語は理解できなかったし、アジア系の彼らが話す早口な言葉(多分中国語や韓国語だろう)は聞き取ることさえできそうにない。

 残念な事に太郎も清美も日本語も危うい低学歴なのだ。

 それに、彼らも今の現状を理解できていないのは目に見えて明らかだった。

 彼らも自分達と同じなのだろう。本当に魔法を信じていた人は少なかったはずだ。


 清美は高志の方を見る。


 「お母さんどうしたの?」


 我が子ながら、この肝の座りっぷりはなんなんだろう。バカなんだろうか?

 清美は高志を見ていると、焦っている自分が馬鹿らしくなってきた。


 「もう、ここまで来たら仕方ないわよね」

 「そうだな。今は無事に帰る事だけ考えよう」


 太郎がそう言って清美の手を握った。

 清美は太郎がこう言った時は頼りになる男だという事を思い出す。

 あぁ、この人のこういう所に私は惚れたんだった。

 清美が太郎に惚れ直している間にも時間は進んでいく。


 壇上の方にはエルヴァン以外にも何人かのローブを着た人がいる。

 エルヴァンが壇上に上がり、こちらを向いた。


 「ようこそ、エルヴァン魔法学校へ。ワシの名前はエルヴァン・ストーリア。ここの校長をしております。皆様の中には今まで魔法に触れた事がなかった人達ばかりだと思います。今日の説明会で少しでも魔法の事を知っていただけたら幸いです。」


 エルヴァンはそういうと後ろの椅子に座った。今度は黒いローブの人達が前に出る。その中にはエルヴァンと一緒にいた女性もいた。


 「私は薬学の授業を受け持ちます。フルエリ・テンペストです」


 フルエリと名乗った女性は青い短髪と鋭い目が印象的な女性だ。


 「今日は私の研究成果である若返りの丸薬を持ってきました。薬学を学べばこんな薬が作れると覚えていただければと思いまして」


 彼女が作ったという若返りの丸薬を見た時の女性陣の反応は凄かった。

 実演としてその丸薬を飲んだフルエリの見た目が5歳ほど若返ったのを見た時の女性陣が出した声は、その場にいた男性陣をドン引きさせたのは間違いないだろう。


 残念ながら若返るのは見た目だけらしいが、それでも欲しがる人は山の様にいるに違いない。 


 「俺は基礎魔法学を教える。デビット・ボーダーだ」


 デビットは一言で言うなら屈強な男だった。

 2mは超えている巨体とそれを覆う筋肉、そしてヤクザも逃げだしそうなスキンヘッドの強面という、ローブが世界一似合わないといっても過言ではないだろう。

 本当に教師なんだろうか?


 「私は幻想魔獣学を教えます。エリナ・ファランドールです」


 そう言って頭を下げたのはエルヴァンと一緒にいた女性だった。

 彼女が教えるのは幻想魔獣の生息地や育て方だ。授業の中盤からはクラスで魔獣の飼育も行うらしい。


 男性陣が鼻を伸ばし、今度は女性陣から白い目で見られていた。


・・・


 「では、次に校内を案内しましょう」


 教師陣の紹介が終わるとエルヴァンに学校内を案内してもらえることになった。教室や運動場、購買所や学生寮を案内してもらう。

 案内をしてもらっている間、誰もが思った事はエルヴァン魔法学校が思っていた以上に巨大だったという事だ。


 外を見ればホウキに跨った少年たちが空を飛び、馬車が空を駆けていくのが見える。その光景はアニメや漫画の世界であり、正しく非日常のソレだった。

 

 「エルヴァン魔法学校では学生に授業を選ばせる選択式の授業方式を採用しております。今日紹介した先生以外にも教師はおりますが、時間が合わずに紹介しきれませんでした。今からお渡しするパンフレットには我が校の授業内容と教師達の一覧が載っておりますので帰ってから見てくだされ」


 学校の案内を終えて講堂に戻ってきたエルヴァンが手を叩くと、机の上にパンフレットが現れた。


 「これで説明会は終わらせていだだきます。入学を希望する方は座ったままでもう少しお持ちください。エルヴァン魔法学校が合わないと感じた方はお立ちください。送らせていただきます」


 エリナがそう問いかけるが、席を立つ人は誰もいなかった。



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