そこにある名残
ソファーを選んで欲しいと、佳月から頼まれた。ラグとクッションとテーブル、それと大量の本では殺風景な気がするから、というのが佳月の言い分だったが、正直今更な気はしなくもない。し、そういうことを気にする奴ではねえのにという気もある。そもそも買うのは俺じゃなくて佳月だし、置くのも佳月なんだから普通に自分で選べばいいじゃねえか。そういうことをそのまんま佳月に伝えれば、自分ではよく分からないから、という一点張りだった。いや俺だってそういうのには詳しくねえし、センスだってない。それでもあんまりに頼み込んでくるもんだから、連れ立って家具店をハシゴする羽目になった。
使えりゃそれでいいって俺が、殺風景とは言っても多分、と言うか絶対めちゃくちゃ高い佳月の部屋の家具を選ぶってのは思った以上に気を遣うことだったらしく、結局まあこれなら……って代物を見付けるのには三時間くらい掛かっちまう始末だった。決めちまえば後は佳月が事を進めるだけだからいいが、あんなに頼まれたってのになんとも不甲斐ねえ結果って奴だろ、これは。
ところが佳月はえらく満足そうで、帰りの道中ぱっと見はいつも通りでもぽつぽつと何回も礼を言ってくる。金を出した訳でもない、選ぶのにも手間取った俺にそれは大げさ過ぎじゃねえかとも思ったが、心底嬉しいのは分かったからまあ、悪い気はしなかった。
ソファーは予定の通り、何の問題もなく家に運び込まれて来た。至極大きいという訳でもないけれど、それでも本ばかり溢れていて何となく寂しかったリビングの空隙が埋まったように感じられた。
鷹司がああでもないこうでもないと唸りながら選んだソファーは、本当に随分と考え抜いて選んでくれた物らしく、極々自然に部屋に溶け込んでくれた、と思う。勿論座り心地も申し分ない。
ちょっとした思い付きだった。馬鹿らしいとも思った。けど、いざこうして見てみると、何だか凄く、安心した。
これからどうなるかは分からないけれど、このソファーだけは、一緒に連れて行こうと思う。
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