第1章 夢の声12
言葉の意味が分からず、不思議そうな顔をする環を一瞥し、紫乃は高枝に留まる金色の鳥を見上げ、その深紅の鋭い眼を見つめた。
この空間だけ、世界と切り離されている様な感覚。
「(あなたの声なの…?)」
そう心の内で問いかけた瞬間に、鳥は大きい翼を広げ飛び上がった。
「あっ、どっかいっちゃう…?」
環が声をあげた。
上へ飛んでいくのだと思ったのも束の間、金色の鳥は凄まじい速さで一気に下降した。
「なっ…こっちに来るの?」
そう声を発した瞬間、金色の光は、思わず目を瞑るほどの大きな水飛沫を立てて、暗い湖の中へ潜っていく。
「え…!?」
眩く照らしていたその光が湖の深くに吸い込まれて、辺りは一段と真っ暗になった。
言葉を失った二人は、同時に湖から一歩後ずさり、静かになった湖の水面を呆然と見つめた。
いきなりの事に驚き過ぎた気持ちと、また制服が濡れてしまった、という冷静さが混在し、ぐるぐると思考を乱していく。
しん、として真っ暗になった場所。
それもまた束の間の事で、忽然に風が吹き荒れる。
刹那、湖全体が一気に金色に瞬きはじめた。
光の粒子が湯気の様に湧き上がり、周囲全体を照らすほど眩しく発光して、二人を光で包んだ。
目が開けられないほど光に眩み、どちらからともなく肩を寄せた。
「紫乃!」
「…環…!」
濡れた肌や服の感覚も無くなり、地に足がついているかも分からないほど意識が薄れていく。
身体が全く動かなくなり、二人の意識が完全に途切れる間際、
紫乃は左手にある環の手の体温だけを、はっきりと感じた。
ーーー「こっちにきて……。」
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