第1章 夢の声10



ーーーキィイ…ン…



どこからともなく、耳鳴りの様な、不気味な甲高い音が二人の頭に響いた。



その瞬間、紫乃は話していた口を噤み、二人の足が止まる。




沈黙。三秒とも経たない沈黙がやけに長く感じた。



「今の音…何だろう。」




環が声音を低くして囁いたが、紫乃はゆっくり首を振った。



二人で辺りを見回すが、ここは住宅地を外れたひっそりとした通りで、車どころか人の気配も全くしない。



普段も人通りの少ない林の近くだが、何故か今は一層に不気味さを増していた。



「何かの物の音っていうより、頭に響く様な音だったけど…。」



紫乃の言葉に環も頷いた。



ーーーキィイイ…




「また…!?」



紫乃が顔を顰めて片耳を摘むと、隣で環が息を呑む音が聞こえた。



そして紫乃の肩を掴み、厚い雲に覆われた暗い空を指差した。



「ねえ、あれっ…なに?」



「え…?」



環が指差した方向にぱっと目を向けると、見た事もないモノ。



ーーー鳥?



ソレは暗闇の空に異様に輝く黄金色をしており、翼をはためかせている。



頭には鶏冠の様な長い毛並みがなびいており、大きさは小ぶりな鳩と大差ないが、その翼は体にそぐわない程大きい。



その羽毛が輝き、自ら光の粒子を放っている様に見える。




二人はすっかり立ち止まり、異様なモノに目を奪われ暫く硬直していた。



金色の光に二人の顔が照らされて、お互いの顔が良く見える。




「あんな鳥、見た事ない…よね?紫乃。」




「ええ…それにこっちを見てる様な…。」




言葉が喉に痞えてしまい、上手く声が出せない。



その金色の鳥は不思議な事に、二人の真上辺りををゆっくり旋回しており、こちらの方を見ている様であった。



その姿に魅入っていたが、鳥の鋭い眼を見た時に紫乃はハッと冷静さを取り戻した。



赤く燃える様な眼光は、この世のものでは無いと思うほど妖美で、同時にとても恐ろしく思えた。



「さっきの変な音って、もしかして鳴き声なのかな…。」




その言葉に確信は持てなかったが、そうなのかもしれないと紫乃は思った。



金色の鳥はそこで暫く旋回を続けて、光を振り撒きながら木々が生い茂る方へ向かっていった。



「あ、林に入っていく…?」



長い毛並みを輝かせて羽ばたいていく様子を、自然と目で追う。






ーーー「こっちにきて」



突如、紫乃の頭の中にそう響いてきた声は、確かにあの夢の声と同じだと思った。



その瞬間、つい反射的に足が駆け出していた。



「え、紫乃!待って!」



背後で慌てた様な声をあげて追いかけてくる環に一瞬振り返りながらも、

誘う様に羽ばたくその光を追いかけ、既に夜闇で真っ暗になった林に入っていった。



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