第1章 夢の声9
「紫乃のお母さんは毎週末にこっちに帰って来るんだよね?」
いつもなら環と別れる十字路を一緒に通り過ぎ、街灯のあまりない道に入る。
「そうよ、帰ってこれない週もあるけどね。明日は多分帰って来ると思う。」
ホテルマネージャーとして働く紫乃の母は、職場がここから遠く、出張も多い。
その為仕事の忙しい平日は、以前紫乃と両親の三人で住んでいたマンションをそのまま住家にしている。
一方で父は商社勤めをしており、紫乃が中学生に上がる前から海外赴任になっていた。
両親が仕事で忙しく、在宅している事が格段に減ってしまう事から、紫乃は実家に預けられ、祖母に何年も世話になっている。
両親と居られる時間は少ないが、いつも家には祖母がいて、週末には母がこちらに帰って来る為、紫乃はあまり寂しいとは思ったことはない。
優しく話好きな父には年に二回ほどしか会う事が出来ないが、
それでも時々送られてくる写真付きのポストカードで父の顔を見る限り元気そうで、心配をする様な事はなかった。
「そっかあ、紫乃のお母さんには二回だけ会ったけど、お父さんは写真でしか見た事ないし話してみたいなあ。」
「確かにそうね。あ、お母さんいつもね、紫乃に環ちゃんみたいな友人ができて本当に良かったって言ってるの。」
元から人付き合いに消極的な紫乃を母は心配していたが、いつも環の話をして笑う娘をみて安心している様だった。
「えー、本当に?なんか照れるなあ。私は家族に紫乃ちゃんを見習いなさいって言われるよ。」
「うそ、冗談でしょ?」
私に見習う様な所は無いのに、と紫乃は首を傾げるが、
環がわざとらしく?を膨らませているのを見て、どちらからともなく笑った。
その笑い話の収まった時、環はふと紫乃を横目に見ながら問いかけた。
「そういえばさ、今日の紫乃はどことなく上の空って感じだったけど、何かあったの?」
突然の意外な問いに紫乃は一瞬困惑したが、
割と勘の鋭い環には分かってしまっていたんだなと息を吐き、風で靡く髪を後ろへかき上げた。
「うん、後で話そうと思って忘れてたわ。」
環が興味津々な表情をしているのを見やり、
紫乃があのね、と話しかけた時の事だった。
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