第1章 夢の声8



「また会ってみたいわ。雅己(まさき)君は元気?」



「うん、雅己は相変わらず野球一筋って感じだよ。

あ、そういえば今日の練習試合終わってから、皆で従兄弟の家でご飯食べるって言ってたなあ。」



「え?皆ってご両親も?」



「お父さんは仕事だけどね、お母さんが雅己の試合見に行って、従兄弟の子も雅己と野球部で一緒だし、そのまま夕食も一緒にって事だろうなあ。従兄弟の家がそこから近いから。」



「なるほどね、環はどうするの?」



「何か買って食べてって言われてたの忘れてたよ。

育ち盛りの娘をほっといて酷いよねえ。」




そう言って困った様に笑う環の顔を見ながら、紫乃はそうだ、と思いついた。




「良かったら、私の家で夕食食べていかない?何度か来た事あるでしょう?」



紫乃が環の顔を覗き込む様に伺い、二人は自然と足を止めた。



環の顔が嬉しさと遠慮の入り混じった微妙な表情になる。



「でもそれは元から行くつもりで行った時だったし、いきなりお邪魔したら迷惑でしょ?」



紫乃は首を振って笑った。



「いつもは私と二人だけなのに、夕食を作りすぎちゃうみたいだからね。

それに、おばあちゃんも環に会いたがってたもの。」



「本当?行っても良いなら凄く嬉しい!

紫乃のおばあちゃん、優しいし、ご飯美味しいし私も大好き。」



環がにっこり笑うのを見て、紫乃は彼女の手を引いてまた歩き出す。



「じゃあ決まりね。

それと、おばあちゃんは優しいけど、礼儀やお作法には凄く厳しいのよ?」



「ええー、想像つかないなあ。だから紫乃はいつも上品で礼儀正しいんだね。」




紫乃の祖母はいつもニコニコと微笑んでいて、近所付き合いも良く、

優しく上品なお年寄りという印象を抱く風貌だが、教育という面では厳しい。



それでも紫乃は、祖母の厳しさが愛情深い優しさからくるものだと、子供ながらに理解していたので、今まで苦に思ったことは一度もなかった。




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