第1章 夢の声7
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数時間後図書館から出ると、天気予報通りに雨は止んでいて、静かな夕闇が辺りを包んでいた。
すっかり乾いた制服が涼しい風に揺れて、昼間ほどの蒸し暑さも無く心地良い。
もともと交通量も少ない通りを二人で歩いていると、環は胸に詰まったものを吐き出す様に深く息をついた。
「紫乃に教えて貰ったから何とか出来そうだけど、数学はやっぱり不安だなあ。」
「今日復習した所が主なテストだと思うから、後は時間を気にしながらやれば大丈夫よ。」
「簡単に言ってくれるなー、でも教えてくれてありがとうね。」
目を瞑って、力いっぱいに腕を伸ばして伸びをする環を見ながら、紫乃は彼女が以前に言っていたことを思い出した。
「環が勉強を頑張っているのは、渡坂中央大学に行く為だったわよね?」
「うん!でもまさか紫乃も同じ大学志望だなんて思わなかったなあ。」
進学を前提としている新渡坂高校は担任教師と進路相談をする時期も早く、
高校二年生の前期から、紫乃は環が同じ大学を志望している事を知っていた。
「綺麗な寮があって、この辺では有名な大学だものね。
環のお姉さんも行ってたんでしょう?」
「そうそう、色々聞いてたし、私も行ってみたいと思ったの。
お姉ちゃん、仕事に出ていってからはあんまり会わないんだけどね。」
昔の事を思い出しているのか、薄暗い中で街灯に照らされた環の表情は、柔らかくも寂しそうに見えた。
確かお姉さんは、他県の製薬会社に勤めていると紫乃は前に聞いた事があった。
「やっぱりお仕事が忙しいの?」
「そうみたい、私は難しいことは全然分からないけど。
今でもたまに電話するけど、ちょっと疲れてるみたいだからね。」
環には七つ上の姉と、四つ下の弟がいる。
紫乃も何度か、環とその二人が一緒にいる所を見かけたが、姉弟でとても仲が良くて気の良い人達で、環が明るくて面倒見が良い面を持ち合わせているのも頷ける印象だった。
一人っ子の紫乃はその様子を羨ましく思ったのを思い出す。
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