第1章 夢の声5
「あの頃から紫乃は大人っぽくて美人だったねえ。
私と同じ本を読んでたし一目惚れしたよ。」
「その言い方はやっぱり色々と違うと思うのだけど…。」
当時から不思議に思っており、何故話しかけて来たのかを問うと
環から一目惚れしたからという言葉を何回も聞いてきた。
紫乃がそれを真に受けたことはなかったが。
「だって、その言い方が一番しっくりくるんだもん。
見たこともない綺麗な瞳で、肌が白くて髪がさらさらで!
目立つ容姿なのに一人で本読んでるから、気付いたら話しかけてたの。」
環はいつも紫乃の事を褒めるが、少しばかり目立つ容姿を紫乃自身は疎んでいる為、素直に頷けない。
「うーん…まあ、そのおかげで気の置けない友人が出来たのだから感謝しているけど。」
「そう言って貰えると、粘り強く話しかけ続けてた甲斐があるなあ。」
紫乃は日本人の両親の間に生まれながら、明るいヘーゼル色の目を持っており、その稀であまり見ない目に昔から注目を浴びていた。
そして小学生の頃、クラスメイトに珍しい色の目を理由にからかわれたり、心無い言葉を浴びせられていた事もあり、その頃からなるべく人を避けて集団の中に入らない様にしていた。
環が話しかけてきた時も、ひと月程は適当に返事をして、避けていた。
好奇心で近寄ってくる子は今までも何人もいたが皆、紫乃の態度に離れていった。
だが環は紫乃がどんなに冷たくあしらっても、気にもしない様子で、他愛も無い会話をしに紫乃のクラスまであしげなく訪れていた。
そんな環の安心する優しい雰囲気や楽観的な性格に徐々に心を開いて、今は紫乃の中では初めての大切な唯一の親友になっていた。
そして、確証は無いが環もきっと大切に思ってくれているのだと紫乃は感じている。
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