第1章 夢の声4
目の先に小さめの図書館が目に入った。
図書館の駐車場を抜けて、赤茶の少し古びた屋根が伸びた玄関で傘を閉じる。
2人共ずぶ濡れという程でも無かったが、
このまま入って気難しそうな司書さんに嫌な顔をされても居心地が悪いのでここで拭くことにした。
「後ろ拭いてあげるよ。」
「うん、ありがとう。」
「紫乃の髪って本当にさらさらー!羨ましい。」
紫乃の長い後ろ髪をタオルで包みながら環が声を弾ませた。
その様子を首を傾けて見やると、低い位置で丸くお団子に結った環の髪が少しほつれていた。
「私は環の茶色の髪が羨ましいけどね。」
「ええ、学校の先生達とかクラスの皆に色々聞かれたりで面倒臭いよ。
私も綺麗な黒髪でここまで伸ばしてみたいな。」
珍しいモノで他者に注目されてしまう気持ちは紫乃も良く分かるので、それは嫌だなと思った。
「私は気付いたらここまで伸びてたのよね。ちょっと切った方が良いかな。」
美容室には通っているものの、いつも少し切るだけで大幅に髪型を変えようという気にはなれない。
紫乃はクラスメイトにあまり見られたくもなく、何か聞かれて話すのも面倒だった。
「短く切ってしまうのは勿体無い気がするけど、紫乃は肩ぐらいの長さでも可愛かったよ?」
「…あんまりそういう事を言われると恥ずかしいのだけど。」
環が思い出しているのは、きっと中学生になったばかりの頃の事だろう。
小学校を卒業して、両親の仕事の都合で母方の祖母の家に住むことになり、違う地域の中学校へ入学した。
知らない子ばかりで馴染めず、元より一人行動を好む紫乃は大抵の時間を読書に費やしていた。
そんな紫乃に話しかけてきたのが、当時まだ背が同じくらいの環だった。
ーーー『呉羽(くれは) 紫乃(しの)ちゃんだよね、
私は隣のクラスの一色(いっしき) 環(たまき)っていうの!』
突然話しかけてきた
茶髪のセミロングの活発そうな少女に、紫乃は戸惑い警戒心を抱いたが、
何故か安心する声音だったのを覚えている。
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